ものづくり企業には「良いものづくりをしたい」というDNAが染みついている。
良いクルマ、良いカメラ、良い機械、よいアプリ。DNAと呼ぶしかない、根っからの動機である。
毎年、前年より良く吸う掃除機、良く剃れる電動ヒゲソリ、壊れにくい電動工具、等々。さらなる高みを目指して頑張っている。
このように毎年改善を重ねている技術者たちに困っていることを尋ねると、「設計以外の業務に時間をとられて忙しい」という答えが返ってくる。少なくともトップスリーには入ってくる。現場の人たちの感覚同様、この「設計以外の業務」が、革新的なものづくりを阻害していると言ったら、読者の皆さまはどう思うだろうか。
設計に関係のないこととは?
課内会議、営業会議、品質会議、生産会議、デザインレビュー、後輩の育成、低価格な仕入先の評価、このような業務は決して無駄ではないはずだ。特に、一定の品質を保つためにはとても重要なタスクになる。既存の事業を安定して継続させるには、組織のルールに従い、前例を尊重した行動が求められる。組織に存在する成功例を普く使うことが、経営資源を最大限に活かす方法になる。官僚的な組織というのは言葉のニュアンスとは逆に、うまく行った事例と歴史のある「勝ち組」の組織と言っても過言ではない。
にもかかわらず、なぜこのような官僚主義はここまで嫌われているのだろうか?先ほど例として挙げた新製品開発の現場では特に嫌われている。また、嫌われる真っ当な理由もあると考えている。
その理由というのは、
良いものを創る≠良くないものを作らない
という不等式で表される。
社内のさまざまなプロセスを経たものづくりは、非の打ち所の少ない、オールラウンドな結果となる可能性が高い。色々な人の視点が加わり、網羅的に考えられたものは欠点の少ないものになる。
レビューや多くの人によるチェックは、悪いところ(特に以前クレームや問題となったこと)に対して行われる。どうやれば、より尖ったものになるか、というレビューはまず行われないのが一般的だ。
それだけに、インパクトの少ない、その割には高価な商品となってしまうのだ。
これがいわゆる「ガラパゴス化」のシナリオになる。
全く魅力の分かりにくい、売れない製品が残る。。。
実は、私はこのガラパゴス化について、かなり長い間悲観していた。
ところが、最近ではガラパゴスな製品も「生きる」ところがあるということに気づき、見直しているところがある。
それは、一部のB2B市場である。
つまりは、欠点が少なく、色々な視点で作られたオールラウンドなものが求められる市場ということになるが、要するに意思決定プロセスが複雑な商品である。
また、製品寿命が長く、買い替えの少ないものであれば、購入時に検討することは増える。
このような商品群であれば、オールラウンド化は悪くない。
ただし、インパクトを伝える際のメッセージだけは尖って欲しい。無料でお試ししてもらうのもとても効果的だ。(なので、せめてマーケティング手法については、レビューを減らそう)
相手に欲しくさせなければ、何もはじまらない。
それからレビューを始めても遅くはないと思うのだが。