イノベーションにはリスクが伴う。
失敗する可能性は高く、不確実性も高い。
成功すれば大きな見返りが期待できるものの、その成功確率は分からないし、見返りの大きさも定かではない。
第1原則 リスクとリターンは表裏一体
だが、リスクを取らないと成長しないし、リスクを取らないで得られる成功は大した成功とは言えない。ノーリスク、ノーリターンなのである。
勇気という言葉もあるが、無謀なチャレンジを勧める気はない。そういう時代は終わった。賢くリスクと付き合いたい。私たち自身のものを含め、多くのスタートアップ起業家や、社内ベンチャーを見てきて、いくつかの原則を整理してみた。
リスクとリターンはコインの裏表、表裏一体であるというのは当たり前かもしれないが、リスクの第一原則と言えるだろう。
第2原則 リスクは過大評価されやすい
すると、リスクの第二原則は、「リスクは過大評価されやすい」というものだ。
「損失回避」という人間が持つ認知バイアスがある。私たちは、同じ1万円でも、持っている1万円を失う方が、1万円を得るよりも大きな損失だと感じてしまう。損をしないことを、得をすることよりも強く避けてしまうのは、私たち人間が持つ生存本能として備わっているのだ。つまり、リスクを冷静に評価することで、必要以上に恐れずに取り組むきっかけになるはずだ。
損失回避以外にもエルズバーグのパラドックスというものがある。私たちは不確実性を極端に避ける。情報が少なく、曖昧なことがらについて、過大なリスクがあると捉えてしまうことがわかっている。成功確率もはっきりせず、成功したときのリターンもわからないというだけで、イノベーションへの取り組みは忌避される。
第3原則 一部の人には有利なリスクがある
リスクの第三原則は、「一部の人には有利なリスクもある」というものだ。違法行為ではあるが、インサイダー情報を持つ人は持たない人よりも、株で儲けることは容易い。もちろん、インサイダー情報が間違っていることだって、株価が想定外に上下することもあり得る。だが、企業の業績や、戦略について限られた人しか知り得ないことを知っている人にとっては、同じ銘柄であっても有利な株取引ができることは自明だろう。インサイダー情報とまでもいかなくても、業界についての深い洞察や経験、知識を持つ一部の人にとってリスクは有利に働く。顧客のジョブや市場の動向について独自の発見があると、スタートアップや新規事業にとって非常に有利であるのも同じ理由だ。
第4原則 行動しないリスクもある
リスクの第四原則は、「行動しないリスクもある」ということである。株や投資信託にリスクがあるからといって、即タンス預金とはならない。家が火事で燃えて札束が炭と化すかもしれないのだ。金庫に入れていても盗難に会うかもしれないし、インフレや、国家破綻などのリスクもゼロではない。とにかく絶対ということはないのだ。何も行動しなければリスクがないかといえば、そんなことはなく、何ごとにもリスクは伴う。
第5原則 リターンと損失は非対称であることが多い
第五原則は、「リターンと損失は非対称であることが多い」というものだ。例えば、株に100万円投資すると、最大の損失は100万円だが、最大の利益は無限大である。実際、アップルの株を上場時に買っていたなら1000倍以上になっている。これからいくら株価が上がるかはわからないが、買うときに支払う金額以上に損することだけはない。
チャレンジは期待を超える
これらの5つの原則から導くことができる一つの結論は「リスクを取ったチャレンジには期待以上のメリットがある」というものだ。リスクを取ったこと自体が新たな選択肢や可能性を開くこともある。チャレンジをしただけで世界が変わって見えるだろう。思い通りにはいかなくても、想像以上の経験は得られるのだ。しかも、取るに値する有利なリスクを取っていれば、そのリスクは想定より遥かに小さく、リターンは無限大なのである。