TRLとは?死の谷の定量化に意味があるのか?の画像

TRLとは何か?

研究者の皆さんは、「実用化」あるいは「社会実装」もしくは「商業化」までの残りの距離をいつも気にしながら研究や開発をしているかもしれません。ところが、新しい技術であればあるほど、先を見通すのが難しく、残りの道筋について暗中模索になるかもしれません。ゴールが見えていないと、いくら成熟度を高めてもまるで「アキレスと亀」のように残り1割という状況に陥ってしまいます。

企業内の組織レベルで考えても、研究部門から開発部門へとバトンを渡す基準には、共通言語がなく連携が難しいのも事実です。あるいは、スタートアップなら「次のステップに進むためには誰と組むのがいいのかな」と悩むことも多いのではないでしょうか。そんなとき、TRL(技術成熟度レベル)という世界共通の物差しを活用すると、道が開けてくるかもしれません。

TRLは多くの最新技術を統合したプロジェクトを成功させるべく、NASAで生まれた指標です。現在では世界中で使われている「共通言語」です。例えば、アメリカでは国防総省が調達に活用し、欧州ではEUのHorizon 2020という大規模な研究開発プログラムでも採用されています。さらに、2013年にはISO 16290として国際標準化され、世界中の研究機関や企業で使われています。

TRL 1: 基本原理(コンセプト)
TRL 2: 技術的原理の確認
TRL 3: 概念実証(PoC)
TRL 4: 実験室レベルの技術検証
TRL 5: 類似環境における技術検証
TRL 6: 類似環境における技術の実証
TRL 7: 運用環境におけるシステムプロトタイプの実証
TRL 8: システム完成
TRL 9: 運用環境におけるシステム実証

死の谷とは

研究という起点から見ていくと、実験室で上手くいったものが、なかなか次のステージに進めず、研究予算も途絶えてしまうケースがよく見受けられます。もちろん、当然の自然淘汰という見方もありますが、もったいないケースも非常に多いです。

このTRL4からTRL6が「死の谷」と呼ばれるのも、急に問題の性質が変わるからだということがわかります。

  • ラボの規模から実用規模へのスケールアップ問題
  • 実環境での安定性・信頼性の確保
  • 規制への対応
  • 製造方法の確立
  • 市場ニーズとの擦り合わせ

特に、「類似環境」というのがネックです。要するに、導入先の環境が想定できており、その環境を再現出来る必要があるのです。技術の初期「ユースケース」や「用途」を見つけることが重要です。なるべく、根源的に困っていて、採用速度が速い用途を探すのがポイントです。つまり、PSF(Problem Solution Fit)です。

ディープテックにおけるPSFは、技術がディープなだけにグローバルな視点が重要です。TRL3にまで進んだら、グローバルな用途リサーチをしてはどうでしょう。(宣伝)

オープンイノベーションの共通言語

シンガポールの大学や研究所(NUS、NTU、A*STAR)では、研究所の技術を産業界に橋渡しする際にTRLを活用しています。研究内容が、化学であろうと医学であろうと、AIであろうと、「基礎研究」「応用研究」「実用研究」「開発」といった曖昧な用語を超えたコミュニケーションを可能にします。

こうやって見ていくと、「死の谷」は、お金だけでは越えられないことがわかります。違うステージにおいて様々な経験やノウハウを持つパートナーとの協業が重要になってきます。実環境で使用し、市場の具体的な用途に応じた問題を洗い出しながらTRLレベルを上げていく「テストベッド」という工程があることを私たちは認識する必要があるのです。

技術者や研究者が多い一方で人口が少なく、市場規模が期待できないシンガポールは、この「テストベッド」環境を整えることでイノベーションの場づくりに貢献しています。私たちが知っているだけでも、医療、介護、ロボット、運輸、ロジスティクス、コマース、教育、高齢者生活、エネルギー、環境保護といった広範囲を対象にしたテストベッド提供者がいます。

このように、TRLは単なる技術評価の指標ではなく、グローバルな協力関係を築くための共通言語として機能します。2つの研究機関で生まれた技術を組み合わせる際にも、お互いの技術の成熟度を伝え合う一助になるはずです。漠然とオープンイノベーションに取り組む前に、今一度TRLの活用をお勧めします。


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