利用可能性バイアス Availability Bias
人は、もっとも直近の記憶を一般的な事例として受け取ってしまう傾向にある。
先日、上場審査内容の確認を証券会社としていたときの話。海外子会社は、特に細かく見られると、担当の方々は言っていた。出来れば海外子会社なぞない方がいいというトーンだったので、驚きを隠せなかった。上場企業になるような会社なら海外に関連会社の一つや二つあっても不思議はないどころか、企業価値を高めるためにも推奨されていると思っていたからだ。
東証は上場基準を厳しくし、上場後も企業価値を高め続けることを求めて制度改革をしている背景を含めるとさらに不可解だ。
「なぜ企業価値が上がるかもしれない海外進出や、海外子会社の設立を否定的に見ているのですか?」と、私は尋ねた。
「最近、海外子会社を脱税や資産隠しに使った会社があったんですよ。」
「そんなに沢山の事例があるんですか?」
問い詰めたわけではないが、気になったので頻度を聞いたところ、少し怪訝な顔をして答えた
「でも、私たちだけでなく、監査法人や東証も最近あった不正を細かく見るので、注意が必要です。」
「また利用可能性バイアスか…」と頭をよぎった。
利用可能性バイアスとは、直近に起きたことや、身近なハプニングの印象が強く印象に残るように私たちの脳は出来ていることを指す。だが、それだけではない。実際よりも「多く」発生しているかのような錯覚をしてしまう。
ネガティビティバイアスもある。悪いことは強く記憶に刻まれる。
上場審査をしていたのに、大きなミスや不正を見つけてしまったりすれば、それはショックだろう。強くそのリスクを感じるに決まっている。でも、だからといって海外進出自体を否定する理由にはならない。なぜなら直接の因果関係があるわけではないからだ。
そして何よりも、その一度の失敗が、挑戦を過度に躊躇させる。
重要なのは印象ではなく、どのような因果関係があるかという点だ。
「その不正を起こした企業は、不正をするために海外支店を作ったのですか?」と私は尋ねた。
答えがないことはわかっていたが、気になってしまった。そして、もちろんその質問に対する明確な答えはなかった。
大きな落とし穴
スタートアップや新規事業、そしてVCにとって、この利用可能性バイアスは大きな落とし穴になりうる。
なぜなら、これらのスタートアップが成功するかどうかは最低でも5年はかかる長期戦で、成功確率が低いだからだ。そこら一般的な取り組みの多くは失敗する。もう少し説明すると、新規事業や投資に取り組んでいると、身近な事例に影響された行動を取ってしまいがちだが、その行動は成功につながるとは限らない。成功につながらないどころか、失敗につながる行動が多く存在する。
採用戦略や、資本政策など、「あの会社が使った手」が身近で良いアイデアに感じてしまいがちだ。よりどころがないと、アイデアがあるだけで救われた気がすることもある。「誰もが使った手」というのは「多くの失敗したスタートアップが使った手」でもあるという感覚は持ち続けたい。