ストーリーから始める新規事業開発

Written by 山田 竜也 on 2021-02-22
 
 
  • 「自身の思い、その基となった原体験」
  • 「新しい事業を起こして自分が助けたい人、その人たちがどの様に困っているか、その窮状」
  • 「そして、その窮状を発生させる環境要因となっている、会社や業界、そして社会の不の部分」
先ずは、この3つを描いてみよう。そして、自分の言葉で語れるストーリーを作る事で、聞き手を動かす熱量が生まれる。

新規事業のアイデアを経営層や投資家に伝えるためのピッチづくりを支援していて、改めて思った事がある。ピッチの型として書籍「巻き込む力」で示している10枚のスライド構成は、聞き手にとって非常に分かり易く必要十分なポイントが網羅されている。

この同じフォーマットを使っていても、話し手によって大きく印象は異なる。もちろん、話し手たる起業家自身の熱量による部分が大きいのだが、その熱量を上手く載せられている場合とそうでない場合がある。

それはストーリーが語られているかどうかだ。
  • 既存事業の説明では、データや事実に基づく、正確さが重視される。
  • 新規事業の提案では、尤もらしい仮説や背景情報に基づく納得感が重視される。

こうしたことは既に言われている事だが、特に企業内で新規事業に取り組む人にとっては、普段の業務と思考を変える必要、周囲の反応とのギャップもあり、納得感を出すことに苦労している様に見える。
ここではもう少し、納得感の元について考えてみたい。

聞き手の期待に応えようとし過ぎると、会社の次の柱に育ちそうか?、有望な投資機会になりそうか?といった視点に気を取られてしまうが、これには新規事業開発のステージをある程度進んだ上でないと答えられない。

こうした成長ストーリーを語る前に語って欲しいのが、原体験ストーリー、顧客ストーリー、業界ストーリーの3つだ。

それぞれのストーリーは冒頭に載せた絵と対応している。

  • 原体験ストーリーとは、なぜ自分がこのテーマに本気で取り組んでいるかを示すもの
  • 顧客ストーリーとは、助けたい顧客の窮状を第三者が共感できるぐらいに語るもの
  • 業界ストーリーとは、その業界や社会における不の構造、変革する事により大きな改善が見込めることを示すもの

原体験ストーリーばかりを熱く語っても、そこに、助けたい顧客の姿や、顧客の負が生まれる背景が無いと青臭い理想論だけを唱えている様にしか聞こえない。社会課題の解決だけを唱えても、大きなビジョンは示せても、そこへの具体的な道や具体的なテーマが無ければ机上の空論にしか見えない。

個人の独立起業だけであれば、原体験ストーリーだけでも突破できるかもしてないが、事業を起こして、社会へのインパクトを出していくには、3つ揃う事が必須となる。

原体験ストーリーは、良いスターティングポイントとなる。そこには純粋な思いもあれば、もう少し利己的な野心もあるだろう、何れにせよ、熱量を生む動機をそこで示す事で聞き手に本気度合いが伝わる。

顧客ストーリーは、自分がどれだけターゲット顧客の事を直接知っているかを示すものだ。どれだけ多くの現場を訪れたか、インタビューを行ったか、そして、多くのターゲット顧客との出会いで自分がどう変わってきたか、どんな確信を持つに至ったか、何を使命として捉えているかを示すことにもなる。原体験ストーリーに顧客ストーリーが重なる事で、自分の原体験が多くの人にとっての共通体験であり、課題の重要性を示すことができる。

業界ストーリーは、自分の思いを遂げ、助けたい人の窮状を解決するために、どうアプローチすれば良いのか、窮状が発生する背景、そこで働いている力学、変えられるもの・変えられないもの等を理解している事を示すものだ。ここでは熱いハートだけでなく、クレバーでクールなブレインを示す必要がある。
特にB2Bに絡むビジネスではこの部分が非常に重要になる。個人の感情的な満足だけでは済まされない、業界や社会の合理的な判断、経済性に対して、受け入れられる解を示せるかが求められる。

この3つをストーリーとして繋ぐ事が出来れば、ファーストバージョンのピッチのプロットは完成だ。

次は、ストーリーのシーンとなる要素としてのスライドを1つのスライドに1つのメッセージを込めながら作る。

そして、もちろん、スライドのテクニカルな面も忘れずに、フォントは18pt以上、文字よりもビジュアルで訴えかける、・・・。ストーリーさえしっかりしていれば、その後のスライド作成のディレクションが定まり必要なビジュアルやキーワードも頭に浮かびやすくなる。

ついつい情報を用意してスライドを作ることに走ってしまいがちだが、急がば回れでストーリーから初めて欲しい。そうすれば、綺麗でよく整理されているけど、イマイチ響かない・・・という寂しい状況を減らせるだろう。