世界は螺旋で進歩する

Written by 山田 竜也 on 2020-02-10

D2C(Direct to Customer)の出現

D2C(Direct-to-Consumer)という言葉をご存知でしょうか。卸売店・小売店などの流通を介さず、ECサイトで直接ブランディング・販売を行い、企業から消費者にダイレクトに商品を届ける仕組みのことです。

テスラもD2Cですし、眼鏡のWarby Parker(ワービーパーカー)、最近話題のAllbirds(オールバーズ)という靴もD2Cとカテゴライズされています。

また、言葉としては、シェアリングエコノミーにより増えてきたC2C(個人間商取引)もありますし、一般消費者向け商品を生産するメーカーの間に卸売が入ったB2B2Cもあります。色々なアルファベットの組合せが余計に複雑にしている様な気もしますが、一般消費者向けの製造業を対象にシンプルに考えれば、作り手と消費者の関係の違いで定義できます。

 

生産者 −> 卸売業者 −> 小売業者 −> 消費者

 

生産者 <−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−> 消費者

 

単に仲介業者を減らすだけだと、中抜きするだけですが、新たに着目されている理由はDirectという言葉が示す様に、直接顧客と関係を結べる事にあります。作り手と消費者の関係が双方向になるのです。

これにより、amazon primeやFacebookの様なソフトウエア商品では無い自動車や靴がソフトウエア商品の様な関係性を顧客と直接結ぶことが出来ます。顧客との関係性が直接になれば、製品開発に役立つ情報がダイレクトに取れますし、顧客との関係を深めてLTV(Life Time Value)ベースでのビジネスに繋がります。

 

こうした商取引きは新しいのか?

「生産者が作ったものを直接消費者に届け、顧客との関係をダイレクトに結ぶ」このモデル自体は特に新しくありません。オーダーメードで限られた数の靴や服を売る様な工房型の店は古くからあります。オーダーメードでなくても常連さんを抱える老舗のパン屋さんやケーキ屋さんもあります。
但し、こうして始まった店も顧客数が増え、直接顔の見えない顧客に商品を届ける様になると間に流通業者が入り、大量生産、大量販売が進み、顧客との接点が小売店側に移りB2B2Cの状態になります。販売量が増えてもネットでのお取り寄せの様な形で顧客との直接の関係を維持している場合もあります。

工房型の直接取引、卸売業・小売業を介した大量販売、ネットでの直接取引、結局はいくつかのパターンが繰り返し現れるだけの気がします。同じ所をグルグル回っているだけで、そこに進歩は無い様にも見えます。

 

では、何が新しいのか?

D2Cの本質的な新しさは、SPAと比較すると分かり易いです。どちらも自社で企画、生産した商品を消費者に直接届けるという点は同じです。違いは顧客情報の活用度合いにあります。顧客が商品を購入した販売時点までか、使用後も含めたライフサイクルまで捉えているかにあります。

使用後の反応こそを大事にしているのがD2C企業と言えます。購入時のBig Hireより使用後のLittle Hireにこそ、顧客に選ばれ続けるヒントが眠っているからです。

認知 −> 購入 −> 利用 −> 利用の継続 −> ジョブの解決

生産者 <−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− 顧客からの発信

先ほどの製品やサービスを届ける流れを顧客の視点で書くと上の様になります。

Big Hireは顧客が製品やサービスを購入した瞬間です。この時点ではその製品やサービスを購入したいという顧客のニーズは満たされていますが、顧客がその製品やサービスで解決したかったジョブは未解決のままです。Little Hireとは顧客が製品やサービスを利用した瞬間、もしくは利用し続けてジョブが解決した瞬間です。そして、この瞬間になって初めて顧客からの発信が始まります。生産者が得たいフィードバックが得られる様になります。

例えば、楽器は多くの人が一度はトライし挫折するものの典型です。購入した瞬間には高揚感はありますが、本当に解決したいジョブはその先の弾けた瞬間にあります。そして、そこまで辿り着くには時間がかかります。ギターで有名なフェンダー(Fender)は、ギターを始めた人の90%は1年後には挫折してしまうという状況を発見し、ギターが上手くなり演奏を楽しめるリトルハイヤの瞬間までを支援するために、フェンダープレイ(Fender Play)という初心者のプレイヤーを対象としたオンラインギター学習システムを開発しました。

もちろん、どの企業も販売後の顧客の利用状況を掴もうとしています。昔も購入した製品にユーザー登録の葉書は付いていましたが、ほとんど使われる事はありませんでした。新たな商品解決のための情報は、別途、マーケティング調査を行って入手している場合がほとんどです。

自分たちが良いと信じるものを作り、顧客と直接関係を結び、顧客からのフィードバックを重視して、一緒に良いものを作っていくのが、D2C企業の戦略と言えるでしょう。

 

何が新しさを支えているのか?

一見商取引のパターンがグルグル回っているだけの様にも見えますが、それを支えるインフラは変わってきています。インターネット、決済サービス、物流サービスがあるからこそ、メーカーと消費者の直接取引が可能になります。SPAとD2Cを分ける消費者からの発信は、インスタグラムなどのSNSの発展により可能になりました。

どんな商品において、どの様な商取引の形態が望まれているか?様々な商品が溢れかえる現代に置いては、より自分だけの特別な商品を使いたいという感情的なジョブが強くなります。好きなブランド、自分が推しているブランドを周囲に示したいという社会的なジョブも生まれてきます。

「こうしたジョブの変化と、それを実現するテクノロジーの変化」は即ち、螺旋を上から見たときに、どのジョブが強くなっているかと、螺旋を横から見たときに、どのジョブを解決できるテクノロジーが用意されているかに相当します。

 

2つの視点で世界を見れば、世界は確実に進歩しています。
世界は螺旋で進歩するのです。