コロナウイルスから見たイノベーション

Written by 津田 真吾 on 2020-04-01

このコロナウイルスは私たちの生活を激しく変えています。
「災害」と呼ぶこともできるかもしれません。日々、情報を追いかけていると、ウイルス学、感染症研究、公衆衛生、経済、政治、医療、危機管理など、さまざまな視点から、新型コロナウイルス肺炎(COVID-19)の感染拡大と、人間社会への影響が語られています。

私も、「イノベーション」という視点からこの疫病について書いてみようと思ったのですが、書けることといえば1つくらいしか浮かびません。それは、

有事は解決すべき課題をはっきりさせる

書いてみると、これこそ不要不急なコメントだな~と。不要不急な外出を押さえていると、いかに私たちの日々の生活や経済が「不要不急なこと」で溢れているかを思い知らされるからです。平和で安定した時代に文化や芸術が発展するように、不要不急なことには意味があるし、人間らしさを彩っているのだなぁと改めて感じます。つまり「有事は解決すべき課題をはっきりさせる」とは言いつつ、それだけをやるべきとも、そうでないとも言えなくて、単なる面倒くさいコメントになってしまいました。



ここで終わるわけにいかないので、こういうときは、視点をひっくり返すしかありません。つまり、新型コロナウイルスに限らず、ウイルスの生態と生存戦略を理解することです。だからと言って、面倒くさくないとは言いませんが、コロナ情報ついでにぜひ読み頂ければと思います。

まず、幸いにも人類にとって、今回が初めてのパンデミックではありません。さらに、ウイルスが人類に完全勝利したことはありません。もし仮にウイルスがヒトを必ず征服し、全滅させることがあったとすれば、その時はウイルスにとっても死を意味するからです。ウイルスには知性はないけれど、宿主を殺さないほどには賢いのかもしれません。一方で数百万人を殺すほどの世界的な疫病になり得ることも歴史は示しています。今回の新型コロナウイルスも、当初は若者は罹りにくいとか、インフルエンザ程度の症状とか、致死率が低いとか、さまざまな情報があり、一体どのくらい危険な病気なのか不確かでした。ウイルスは人類全体にとっての脅威であることは確かではありますが、あなたやあなたの愛する人にとって具体的な脅威になるかどうかは不確かなのです。

次に、ウイルスは一種類ではありません。毎年やってくるインフルエンザウイルス、デング、HIV、HPV、等々知られているものだけでもかなりの数が存在します。ヒトに感染するコロナウイルス(CoV)は知られているだけで7種類も確認されています。HPVなど、ウイルスによって多くのがんも発生することが分かってきていて、その原因ウイルスも次々と特定されてきています。つまり、今回耐えれば済むというようなものではなく、いずれ、それがいつになるかは不確かですが、次のエピデミックやパンデミックはきっと来るのです。どのようなウイルスが襲ってくるか種類も分かっていません。地震や台風が発生しない地域があるのとは対照的に、自然災害と異なるのは発生しない地域や時期について、不確かさが多い点です。

ウイルスの優位性の一つが「見えない」ことです。最近よりもはるかに小さく、私たちは見えない敵と戦わなくてはいけません。接触でしか感染しないのか、飛沫感染するのか、空気中からも感染するのか、その現場を観察することはできず、実験や状況証拠から推定するしかありません。見えない敵と戦うと、人間はその存在そのものに疑問に持ちます。神の祟りや悪霊のものだと思ったり、生物兵器のような陰謀論を含め、複数の「解釈」の余地が生まれます。ウイルスではない幻想やデマとも戦う必要が出てきます。テクノロジーのない時代、人類は腕力と簡単な道具と「協力」によって巨大なマンモスを絶滅させました。自分たちよりもはるかに強く大きな相手を、完全に地上から殲滅させたのです。一方で存在が見えないほど小さく、簡単に水で流せるほど弱いウイルスは地上から消える様子はありません。

このように、ウイルスの危険性は、その存在と危機の不確かさ、が本質のように感じます。「不確か」というのは、「きっといる」「たぶんある」「ないことはない」という意味です。そして、ウイルスから見るとこれがきっと生存戦略なのだと思います。ゲリラ戦のように、「いつ攻撃するかわからない」「どこで攻撃するかわからない」「いないかもしれないし、いるかもしれない」「味方だと思っているあいつも敵かもしれない」と相手に思わせることが、はるかに強力な相手と戦うときの常套手段なのではないでしょうか?

ウイルスという不確かさの塊といかに戦うのか?

ここで戦い方としてビル・ゲーツのTEDトークが一つの参考になります。

『サピエンス全史』で有名なユヴァル・ノア・ハラリ氏の「戦い方」も大いに参考になります。

『サピエンス全史』のユヴァル・ノア・ハラリ氏、 “新型コロナウィルス”についてTIME誌に緊急寄稿!|Web河出

著作累計が2,000万部を突破した世界的歴史学者・哲学者のユヴァル・ノア・ハラリ氏は、2020年3月15日付アメリカTIME誌に「人類はコロナウイルスといかに闘うべきか――今こそグローバルな信頼と団結を(原題:In the Battle Against Coronavirus, Humanity Lacks Leadership)」と題した記事を寄稿しました。 新型コロナウイルスと対峙する上での示唆に富んだハラリ氏のメッセージを、氏の著作全てを訳した柴田裕之氏が新たに訳しおろし、ハラリ氏並びにTIME誌の了解を得て、緊急全文公開します! 現代における「知の巨人」が考える、”今、人類に本当に必要なこと”、”真の意味での新型コロナウィルスに対する勝利”とは何か。是非ご一読下さい。 ユヴァル・ノア・ハラリ 単行本 – 人文書 ユヴァル・ノア・ハラリ 2020.03.24 柴田裕之=訳 (歴史学者・哲学者。世界的ベストセラー『 ユヴァル・ノア・ハラリ=著 サピエンス全史』、『 ホモ・デウス』、『 21 Lessons 』著者) …

きっと、ウイルスとの戦いはもぐらたたきになることでしょう。ビル・ゲーツはTEDトークは2015年のものですし、SARS、MERSなどのアウトブレイクも不定期ではありながら、時折襲ってきました。

人類が文明の発展とともに導入してきた感染症対策のためのイノベーションには多くのものがあります。「浄水」「下水処理」「ゴミ処理」のようなインフラもあれば、「ワクチン」「治療薬」「診断薬」などのソリューション、さらには「マスク」「手洗い」といった予防的習慣などもありますし、WHO、CDCのような組織などもあります。しかし、今回のパンデミックが示しているのは、これまでのソリューションでは不十分だということです。これからの世界が待っているイノベーションには、以下のようなものが挙げられるのではないでしょうか?具体的な策や似たような考えを持っている方がいたら、ぜひアイデアを聞かせてください。

  • ウイルスの存在確率が可視化される技術
  • 情報の「不確かさ」が分かる技術
  • 不確実な複数の治療法のポートフォリオ管理するシステム
  • 医療従事者だけでも「確実に」保護される設備・防具

最後に、これらの長期的な解決策が登場するまでの短期的な戦い方としては、隔離やソーシャル・ディスタンスを取ることしかないかもしれません。次の宿主を見つけることのできなかったウイルスは死んでしまうので、仮に感染者を確実に隔離さえできれば、ウイルスはいずれ根絶できるからです。


短期的な戦い方についても、ビル・ゲーツのTEDトークは参考になります。
https://www.ted.com/talks/bill_gates_how_we_must_respond_to_the_coronavirus_pandemic

山中伸弥教授は、今回のウイルスを今のテクノロジーで制圧することは困難、私たちが拡散を防ぐ工夫を取る必要があると発表しています。経済的な損失は回復できるけれど、一度無くなった命は回復できないというメッセージは非常に明確だと思いました。

山中伸弥による新型コロナウイルス情報発信

普通の病気は、患者さんや家族を苦しめます。しかし、新型コロナウイルスはより多くの人を苦しめています。1.感染した方、そのご家族2.エッセンシャルワーカーの方々。医療従事者、公共交通、物流、インフラ、小売り、窓口業務など、自らの感染リスクと、偏見や差別に耐えながら社会を支えて頂いている方々。( 提言) …