ペイシェントジャーニーという言葉があります。
ペイシェントジャーニーとは、医療系サービスを受ける人が医療サービスに辿り着き、医療サービスを受け、症状や生活の質が変化するまでの行動や感情の過程を表す言葉です。似た言葉でカスタマージャーニーという言葉がありますが、ペイシェントジャーニーは医療もビジネスだと認識してカスタマージャーニーから借りてきた概念です。
アメリカを筆頭に医療がビジネス化しています。つまり医療は国民が受ける平等な社会インフラから一歩抜け出し、医療は消費者が選ぶ「サービス」として見なされるようになっていることです。医療が「サービス」ということはどういうことかいうと、病気になったり体調が悪い消費者が、治療を受ける病院を選んだり、そもそも自主的な療養などで問題解決するかを決めるということです。
例えば、私は不調を感じると、その症状をGoogleで検索し、よくある病名であれば寝て治します。それで不安が残るようなら近くの病院をさらに検索し、受診し医師の診断を受け、治療方針を相談するといった行動をとります。最近は自分自身が病院に行くような状態になったことは一切ありませんが、家族の不調であっても同じ流れです。診察の結果、薬を処方されれば、薬局に行き、薬を購入し服薬することになります。
カスタマージャーニーを描くうえで見落としがちなのは
- 病院にかかってからが医療システムの入口なので、病院に行くまでの医療の「無消費」がある
- 病気という症状の前に不安という心理的なQOLの低下がある
- ジャーニーの冒頭に、Google検索や知人の意見といった重要なプロセスがあり、医学的なエビデンスを扱うには適していない情報に患者は将来を委ねている
という3つの点です。
なので、医療系ビジネスの成功のためだけでなく、私たち自身のQOL向上のためにはペイシェントジャーニー全体を考えて向上させていかなければなりません。
しかし、しかしです。
ペイシェントジャーニーという言葉の響きはどうしても好きになれません。
なぜなら、ペイシェント(患者)という、命の危険もあり得る困った状態にいる私たちがジャーニー(長い旅路)を辿ることを前提としているからです。先ほどの例を見ても、非常に長いです。まずはちょっと心配になって、ググって、受診して、診断結果を聞いて、治療方針に合意して、処方箋を薬局に持っていき、自ら服薬します。服薬後、もう一度通院することもあれば、そのままのこともありますね。とにかく、長い!これが希少疾患だったりしたら、たらい回しの連続となり、病名を知るだけでも長いジャーニーとなってしまいます。
目次
ペイシェントジャーニーの問題
ペイシェントジャーニーを洗い出すことから医療系の新規事業を考えている企業は少なくありません。カスタマージャーニーのようにペイシェントジャーニー全体を見渡すことはとても大切なことです。しかし、ペイシェントがジャーニーをすることを当たり前だと思ってしまうという弊害もあります。このような前提でサービスを検討しているチームには、私は「無駄な旅を患者にさせない」ように注意喚起しています。しかしながら、注意をしても患者がジャーニーをすることが当たり前すぎて、各ステップの中での小さな課題ばかりを見てしまう企業も少なくありません。さらに、患者側から自社が提供する治療サービスや医薬品、医療機器を患者が受けに「来てくれる」という前提もおかしいです。患者は「お客様」という側面を持っているサービスの受け手である以前に、体調が悪いのです!
医療が行きわたる前にはペイシェントがジャーニーすることには合理性がありました。なぜなら、医療が国民全員に行きわたる以前の時代、医師や病院は本当に不足しており、多くのステップを余儀なくされていたからです。そういう時代においては、患者ではなく貴重な医療リソースをなるべく効率的に活用する合理性はあります。しかし、医療も高度化し、一人一人の生活や人生観に即したQOLを目指す今の時代には考え方とは合わなくなっていると感じます。
テクノロジーは障害を取り除き、無消費をなくす
最近では私は明らかに異なるジャーニーをすることにしています。まず、不調を感じるとGoogleではなくAI受診相談Ubieを利用します。Ubieのデータベースは、万能型の検索エンジンであるGoogleではなく、医学情報だけをもとに作られています。また、人気のあるウェブサイトという検索結果ではなく、医師の思考回路のようなAIを搭載し、関連する病名を絞り込ります。なので、ジャーニーの一歩目の信頼感が全く違います。深刻な病気に関係しそうであればアラートしてくれるので、不安への対処もしてくれます。
例えば、「めまい」を感じたときに考えられる病気はこのように表示されます。
私が数年前から発症した花粉症の症状を入力すると、以下のような画面になります。
症状に関連しそうな病気が表示されると、近くの病院もリストアップされたりして、受診する際にも便利なのです。
全体のジャーニーが1つアプリで完結するのは嬉しいです。でも、Ubieが本当にすごいのは今まで「無消費」だった「そもそも受診するかどうか決めたい」というジョブを解決している点です。今から思い返せば、AI受診相談Ubieを使う前は、分かりやすいサイトにめぐり合うまで何度もGoogle検索をしていた気がします。
ペイジェントジャーニーであろうと、カスタマージャーニーであろうと、無消費を見つけることはとても大事です。しかし「無消費」は、消費が行われていないため従来のマーケティング手法では見逃されてしまいます。行動観察やインタビューを行って顧客の「ジョブ」を把握することが本当に大事になります。
クリステンセンは著書『イノベーションのジレンマ』に「小さすぎる市場は分析できない」ため、既存事業者は無視したり軽視してしまうと記しました。でも、「無消費」は存在していますし、適切なサービスを提供することができればサービスの消費者と変わることをUbieが証明しています。2021年6月に月間利用者数が100万人を超えたことを発表しました。
―最後に―
医療システムは現在、非常に複雑な構造になっています。私たち一人一人が異なる体質を持ち、異なる生活を送っている上、病気も非常に多く存在しているからです(Ubieには執筆時点で962もの病気が登録されています)。実際、私たちがCOVIDに直面しているように新しい病気も生まれ続けています。防げる病気の予防、さらには研究者や企業、病院や医師の努力によって寿命は延びていますが、寿命が延びることによって別の病気も生じています。
なのでもし、自分や家族に何かの症状があったり、体調の悪さを感じたらスマホからAI受診相談Ubieでチェックしてみてください。その複雑さが少しシンプルになり、ジャーニーは短くなるはずです。
そしてもし、人の健康に携わるような事業をする意志があるようでしたらペイシェントはジャーニーなどしたくないんだという前提を持ってほしいなと思います。そして、もちろん、そのような思いを持っていらっしゃる方には、INDEE Japanにお声がけ頂き、共に事業を創りたいと思います。