私たちは「ハード系」のスタートアップを支援しています。
なぜ「ハード系」という微妙な言い方をするかというと、実はAIソフトウェアを開発しているスタートアップも支援しているからです。例えば、Ubieは AI問診やAI受診相談というサービスを展開するSaaS企業です。DeepEyeVisionはAIを用いた画像診断支援を提供しています。MENOUは、医療画像のアノテーションや外観検査をAIで自動化するサービスを展開しています。
AIと聞けば、最近でこそ最先端の技術を持ったセクシーなスタートアップという印象を持つかもしれませんが、数年前までは怪しさ満点で実用性に疑問符が付くのが世間一般の評価でした。しかもAIを医療や、地味な製造業の目視検査に用いるなんて…と、懐疑的な目で見られるのもしばしば。当時のAIが注目されていたのは、猫と犬を見分けるとか、ゲームに人間に勝ったり、とセンセーショナルさが先行していたように思います。そういうセンセーショナルさから、広告やマーケティング目的のAIは、実用性以上に見た目の印象(ハイプ)が先行しました。
ところが、AIをヘルスケアや製造業の過酷な労働環境に応用しようとしているスタートアップも一定数います。彼らは目立つマーケティング向けのAIを尻目に、本当に役立つAIを開発し、本当に人に信頼されるサービスを提供するために起業した人たちばかりです。目立たない、地味なAIスタートアップです。
地味AIはハードなのか?
それでは、こうした地味な課題に取り組むAIスタートアップはハードなのでしょうか?「なぜハードウェアスタートアップは“ハード”なのか?」にも書きましたが、ハード系スタートアップが難しくなる理由は以下の通りです。
- 物理法則に支配されている
- ものづくりに時間がかかる
- いずれ製造コストの安い競合に市場を奪われる
- スケールするための投資が必要
- ピボットができない
この5つの点を一つ一つ見ていきましょう。
まず、1はそのまま“地味AI”に当てはまります。2については、一見ソフトウェアで構成されるものづくりに時間があまりかからない印象を持つかもしれませんが、そうとも限りません。なぜなら、信頼のおけるデータをたくさん取得し、それを正しく学習することで初めて実用レベルになるからです。現場のデータを取り、データを整え、データに正しくアノテーションを施し、機械学習を行うのは一朝一夕ではできません。
例えば、UbieやDeepEyeVisionは医師が、MENOUでは目視検査の熟練者がこの学習に深くかかわっています。
POC(概念検証)レベルのものが出来たとしても、実用レベルには届かないAIが多いのは、この活動の難しさを示唆しています。しかも、こうして手間暇をかけたAIも劣化版AIが参入するリスクが潜んでいます。3のコピー製品リスクは地味AIスタートアップも抱えているのです。
4のスケーラビリティも、学習工程を効率化し、再現可能にする投資はそれなりに必要です。物理的な生産設備や流通が不要になるので、ハードウェアほどではないですが。ピボットについてはどうでしょう?AIの「実用」を目的としているスタートアップにとって、実はあまりピボットする余地はありません。これまでの経験上、ハード系スタートアップがPMFさせるための道筋は、それほど多くの選択肢はありません。確率の高いものから順に、素早く検証していく必要は他のハード系スタートアップ同様あるのです。
この先はポジショントークですが、ハード系スタートアップに取れる選択肢の引き出しを持っていて、どんなビジネスモデルの仮説を持てるのか、確率の高いものから仮説検証する手順などは、やみくもに取り組んでも分からないことです。仮説の質が高く、手順の引き出しが多いメンターがいるかどうかは、大きな力になるはずです。
X-DOJOでは、AIをハードに実用化するスタートアップを引き続き募集しています。