カスタマーサクセスを成功させる組織

カスタマーサクセスに関する3部作の最終稿です。

その1:カスタマーサクセスとは何か?
その2:カスタマーサクセスとJobs to Be Done, Time to Value

 

前回は、カスタマーサクセスをサクセスさせるために重要な3つの要素を挙げ、最初の2つの要素について書きました。

(1)「顧客の成功」をいかに的確に捉えるか ( 顧客ジョブの把握)
(2)いかに早くその成功に近づけることができるか (タイムトゥバリュー)
(3)組織化とプロセス

今回は「組織化とプロセス」です。

 

カスタマーサクセスの組織化やプロセス化を目指す前に、一つだけ注意をするとしたら、

PMF前にカスタマーサクセスはできない

ということです。

 

しばしば、PMFに到達する前にカスタマーサクセス部隊を作っている会社を見かけますが、「1勝もする前から勝ちパターンはない」ことに気づいた方がよいと思います。

PMFして、顧客がどんなジョブのために製品を使っているのかを把握できた後に、初めてそれをパターン化したり、組織として運用することが可能になります。逆に、そのパターンがあることによって、例外が際立ち、アクションもしやすくなるという循環も生まれます。

 

タッチを決める

カスタマーサクセスの方法論として、フィットしたプロダクトと顧客に応じて「タッチ」を設定するということがまず重要になってきます。

「タッチ」というのは、顧客接点、この場合はカスタマーサクセスの濃密さ、を指す言葉です。ホテルのサービスで言えば、超高級ホテルや旅館はハイタッチです。おもてなしを提供するための接触が濃密ですね。大規模シティホテルは中くらいでしょうか。ロータッチと言えると思います。ビジネスホテルは、セルフサービスが多いです。宿泊客が自助的に過ごしやすくする工夫はされていますが、ホテルの職員が積極的に顧客に関わることはあまりありません。このように、技術を提供することで顧客が価値を最大化する支援をすることをテックタッチと呼びます。

ビジネスモデルキャンバスに精通している方には、CR (Customer Relationships)と同じことを言ってる!とすでにお気づきだと思います。

 

プロセス&KPI

組織・プロセスを考える手順としては、

顧客のKPIを知る → PMFしたプロダクト・顧客に対してタッチを決める → タッチを決める → 顧客のKPIを高めるために必要な資源と活動を定める → 活動を行うための資源を準備し、スキルを集める → 自社の活動のKPIを決め、継続的に計測する

 

タッチは利益構造を決めます。高付加価値製品は、高単価ですし、顧客企業の経営レベルが購入の意思決定をするため、ハイタッチなサポートが必要です。逆に、担当者レベルが使用するようなSaaSであれば、一人一人に個別な対応は困難です。限られた利益が一度に吹っ飛んでしまいます。したがって、技術を使い、顧客の自助的な「サクセス」を促すような活動をカスタマーサクセス部門が目指すことになります。

この新しいカスタマーサクセス部門に適切なKPIを設定することができれば、活動を修正しながら、さらに高い効果が出るようにすることができます。理想は顧客のKPIを、自社のKPIにすることですが、さすがに計測が困難かもしれません。そういうときは、サービスの活用度や利用率といった、自社でも計測可能な指標を設定します。自社KPIを顧客KPIに基づいて決めることが何よりも大切です。ついつい、「売上」のような数値を設定しまいがちですが、これでは漠然としていますし、カスタマーサクセスに取り組む前と代わり映えしません。顧客の成功と直接因果関係のある指標を設定します。

営業支援サービスなら、顧客の売上、客単価、顧客数などが顧客にとってのKPIですが、さすがにこれらを把握することは難しいかもしれません。ですが、システムに登録されている顧客候補数や、顧客増加のためのキャンペーン数などがKPIとして良いかもしれません。

BoxやDropboxのようなオンラインストレージなら、有料無料かかわらず記録されているデータの容量とか、読み書きされた回数とか、共有されているユーザ数、デバイス数などが考えられます。

Written by Shingo Tsuda on 2018-10-11

カスタマーサクセス・JTBD・Time-to-Value

前回の記事では、カスタマーサクセスとは何かを書きました。

カスタマーサクセスとは、「顧客が成し遂げようとしていることを支援するための考え方およびその組織、戦略、オペレーションである。」

という長い書き方と、

カスタマーサクセスとは、「顧客のジョブ解決をゴールとする組織とその機能」

という短い書き方とがありますし、数式が好きな人には

CS (Customer Success) = CO (Customer Outcomes) + CX (Customer Experience)

という数式の方が覚えやすいかも知れません。

 

このカスタマーサクセスをサクセスさせるためには、3つのことが重要になってきます。

(1)「顧客の成功」をいかに的確に捉えるか ( 顧客ジョブの把握)
(2)いかに早くその成功に近づけることができるか (タイムトゥバリュー)
(3)組織化とプロセス

 

 

まず(1)です。どうやったら的確に顧客の成功を捉えられるのでしょうか?

「カスタマーサクセス」という言葉が主にSaaSのようなB2Bビジネスに使われることを考えると、顧客のジョブは割とシンプルな質問でわかります。
「(顧客の)部署のKPI(目指す指標)は何ですか?」

もちろん、KPIがあまり明確に設定されていない企業や部署も多く、はっきりしないかも知れません。ですが、会話を通じて、その顧客が重要視している指標を理解することは可能です。

 

例えば、人事部の採用課が相手である場合を考えてみましょう。

「KPIは?」と尋ねても「は?」みたいな顔をするかも知れません。なので「採用を増やしたいのですか?それとも質を高めたいのでしょうか?」と尋ねてみます。

すると、「採用する人数は各事業部から上がって来るので、人数は決まってるんですよ〜。。。しかも誰でも良いわけではなく、実はAI系のエンジニアの採用が難しくて・・・」と返ってくるかも知れません。

この返事から、採用課が目指していることは「各部門の要望を満たすこと」であることがわかります。特に、開発部門からの評価が得られれば「大成功」です。

このように顧客の成功を捉えると、単に人材を紹介するだけではなく、各部門の要望を整理したり、分析したりすることの重要性が見えてくるはずです。仮に人材紹介のプラットフォームを提供している企業だとすると、カスタマーサクセス部門にとって重要な仕事は「人事部が、各部門の求める人材像を理解しやすくする」ことになります。

シンプルに捉えるなら、ジョブはその部署のミッションやKPIだと考えるとよいでしょう。

 

(2)はタイムトゥバリューです。

つまり、いかに早く顧客が価値を感じることができるか、です。先ほどの人材紹介プラットフォームなら、使い始めてできる限り早く紹介できる人材が伝わるとよいでしょう。サービスを使い始めたとしても、肝心の人材情報に行くつく前にたくさんのフォームを記入させたり、ややこしい説明が多かったりすると、その前に顧客は諦めてしまうかもしれません。諦めなかったとしても、顧客側の負担が大きすぎて十分な価値を感じられないことも考えられます。フェイスブックは、初めてログインしたユーザーができる限り早く友人と繋がるか、という指標を重視することで顧客のタイムトゥバリューを高めています。

総じて、多くのサービスはタイムトゥバリューの設計が甘いように感じます。顧客の要望をしっかりと聞いて、無駄やリスクのない状態で価値を提供しようとするあまり「但し書き」「準備」が先立ってしまいがちです。ウェブサービスの「UX」や「デザイン」の問題という風に認識されているかもしれませんが、要は「使い始めてすぐに価値を感じられるか?」という観点でとらえてはどうでしょうか?価値を提供する場面まで極力ストレートな導線を描くのです。

 

一昔前までは、ユーザがサービスを使いこなすにはマニュアルを読み込むことが当たり前でした。使い方を一通り読んで、それから使用してみて、試行錯誤しながら成果を出してやっと価値を感じることができる時代でした。

その後、「ヘルプ」が当たり前になりました。マニュアルをさほど読まなくても、使用中に「ヘルプ」をクリックすると手助けが得られるというわけです。

「ヘルプ」ではまだ、ユーザの質問に対応する受動的な手助けだということで考えられたのが「ウィザード」のような仕組みです。ウィザードでは、最初にいくつかのシンプルな質問にユーザが答えれば、結果や結果に近いものを即時的に出すようなUXを提供します。

また、優れたタイムトゥバリューを提供する手法として「テンプレート」が挙げられます。あらかじめ用意された複数のテンプレートの中からユーザは選ぶだけで、ほぼ完成したものを手にすることができます。例として、インスタグラムは、どんなフィルターなのかを説明することなく、ユーザの希望するであろうフィルターを複数提示し、タップするだけで写真におしゃれな加工を施します。前時代的インスタグラムが存在するとしたら、ぼかしの入れ方や、彩度や明度の調整方法を紙のマニュアルでユーザに読ませるようなものだったでしょう。これでは、素敵な写真を共有したいという目的に到達する前に骨が折れてしまいます。

長くなってきたので、(3)は次回に回します。

Written by Shingo Tsuda on 2018-10-02

カスタマーサクセスとは何か?なぜ今注目されているのか?

「カスタマーサクセス」最近よく聞く言葉です。
カスタマーサポート、顧客中心、顧客第一、顧客満足、・・・同様の言葉が腐るほど生み出されてきましたが、掛け声だけで何も変わりませんね。
それなのに、今なぜ「カスタマーサクセス」なのでしょうか?

長々と書く前に、まずは自分なりの結論から書きます。

 

#顧客が成し遂げたいこと(=ジョブ)が成し遂げられることではじめて企業は成功する、からです。

 

 

 

まずカスタマーサクセスの定義から説明しましょう。

「カスタマーサクセスとは、顧客が成し遂げようとしていることを支援するための考え方およびその組織、戦略、オペレーションである。」

 

顧客が成し遂げようとしていることを考えているだけでは実行はできないし、組織がなければ業務へと落ちないし、戦略がなければ実行もおぼつかないので、単なる理念ではないことはもちろん大事なポイントです。

 

でも、これではカスタマーサポートといった過去の施策との区別がつきません。

カスタマーサクセスとカスタマーサポートの最大の違いは、カスタマーサポートは「顧客の不満」から仕事が始まる点です。カスタマーサポート部隊は、顧客の不満解消に向けてさまざまな手を尽くします。一方のカスタマーサクセスの起点は、顧客がサインアップすることです。新しい顧客が、サービスを使おうとしたその瞬間から顧客の成功を目指して支援します。

顧客の「不満」と顧客の「成功」、この2つは一見単なる表裏ですが、根っこはかなり違います。

例えば、ビジネスマンが2泊3日のシンガポール出張のために航空券とホテルをオンラインで手配するケースを考えてみましょう。顧客は、フライトの価格やスケジュールを見ながら比較し、予約を入れ、購入します。いざ出張に出かけると、フライトの遅延やホテルの不備を経験するかもしれません。このうち、顧客が本当に不満として声を挙げるとしたら、フライトの遅延やホテルの不備があった時くらいでしょうか。なぜなら、価格や価格表示がわかりにくければ、そもそも顧客化せず、黙ってサイトを去るだけです。一方で、顧客ジョブが成功することを軸に考えるなら、チケットの予約や購入は出張の本質ではないので、シンプルに手際よく済ませられたり、出張後の精算が楽だったりすることが重要だということがわかります。フライトの遅延やキャンセルの際には、迅速なサポートが求められることは言うまでもありません。

「顧客の不満」つまり、クレームを起点にしていると、知らず知らずのうちに顧客を失うことにもなりかねません。出張の計画を立てるのには不便だったりすると、顧客はクレームも言わずに黙って去るからです。これは静かにやってくる悲劇です。クレームもなく売上が下がると「サービスレベルの問題はない。きっと価格だ。」という論理から、価格を下げることで売上の回復を図ります。これもさらなる売上ダウンの要因となります。何が何だかわからないまま、売上ばかりが下がることになるのです。

 

カスタマーサクセスの必要性は、サブスクリプションやフリーミアムといったビジネスモデルの登場によって増しました。

サブスクリプションのサービスでは、顧客はサービスの利用権を月額や年額で購入します。簡単に言うと、顧客が使った分だけを支払う仕組みです。使わないモノを売り込まれて、タンスの肥やしになった経験が誰しもあるのではないかと思います。高額なソフトを導入したけれど一度も使われないものをShelfwareと言いますが、使う分だけしかお金を払わなくて良いサブスクリプションでは、売り手と買い手の利害が一致しやすくなります。

そもそも、サブスクリプションやフリーミアムといったビジネスモデルが登場した背景には、従来の製品販売型のビジネスモデルでは企業のゴールと顧客のゴールとが一致していなかったことがあります。企業の各組織は「販売量」「生産量」「売上」といった指標で仕事の成果を測る一方で、顧客はそれぞれの目標を持ちます。顧客の失敗を目指す悪徳業者も存在はしますが、悪意がなくとも、組織が分断しているために顧客の成功以外のために仕事をしているのが実態ではないでしょうか?例えばマンションの営業マンは、すべての物件が売れることを目標にしているのであって、そのマンションを買って入居する人が良い暮らしができるかどうかを業績目標にしていることはありません。

 

サブスクリプションやフリーミアムといったSaaSに用いられるビジネスモデルを採用している企業では、ユーザー数やサービスの使用期間に応じて売上が変わります。最初は数人で1カ月だけ使用してみたり、そもそも試用期間は無料だったりと、使って価値を感じるまでのハードルを極端に下げています。従来の製品販売モデルと比べると、最初に契約する金額が極端に低くすることで意思決定もスムーズな収益モデルを構築することができます。結果として、顧客とゴールが近い形での収益モデルになっているのです。

実は、SaaSの草分け的存在であるSalesforceの創業者 Marc Benioffが「カスタマーサクセス」という考え方を広めましたが、これまで述べてきたようなロジックで取り組んだわけではありません。Salesforceは画期的なSaaSではあったのですが、顧客を新規で獲得してもしても流出するという問題に直面しました。顧客の流出は「チャーン(Churn)」とも言いますが、Salesforceにとっては相当手痛いものでした。新規顧客の獲得には大変なコストもかかる割には、最初の契約は少額で、ろくに使う前から離脱してしまうのですから当然です。Benioffは、新規顧客への営業を一時的に止めて、既存顧客が成功するためにあらゆるサポートをするという戦略を立てました。ツールの使い方を丁寧に教えるのはもちろんのこと、Salesforceを導入する顧客のゴールである営業、営業管理に対する知見を惜しみなく出すなど、「顧客の成功」に向けた活動に集中したのです。Salesforceのツールを「使う経験」(CX=顧客体験)を通じて、営業成績が伸びるという「結果」(Outcome=結果)が得られた顧客はそのまま定着し、追加のユーザライセンスを購入し、Salesforceの営業成績も回復しました。『カスタマーサクセス サブスクリプション時代に求められる「顧客の成功」10の原則』の著者らはカスタマーサクセスを以下の数式で表しているのは納得です。

CS (Customer Success) = CO (Customer Outcomes) + CX (Customer Experience)

 

つまりジョブ理論をご存知の方には、カスタマーサクセスとは顧客のジョブ解決をゴールとする組織とその機能、と言ってもよいかもしれません。

長くなりましたので、ジョブ理論との関係や、具体的な活動については次回書いていきたいと思います。

Written by Shingo Tsuda on 2018-09-25

《稼ぐ》ことと《働く》こと

日本にイノベーションが不足しているのは「教育」のせいにされることも多いが、これはさすがに乱暴な議論ではないかと思っている。世界に名だたるトヨタ、ソニー、パナソニック、ホンダの創業者たちはMBAなんていう学位を取っていないのははもちろんのこと、「起業家教育」や「イノベーション」について勉強してきたわけではないからだ。

しかし、しばしば比較される米国の教育と比べてみて面白いことに気がついた。
私は父親の転勤に合わせてアメリカの小学校と中学の一部に通い、帰国後、日本の中学・高校に通った。その後、3人の子供たちが日本の小学校に通って、2人は卒業している。2つの国の違いはありすぎて書ききれないのだが、創造性やビジネスという文脈で整理してを言葉にしてみたい。

働くことが尊い日本

日本では「働くこと」は尊いものとして小学生のうちから刷り込まれている。海外から絶賛されている教室の掃除当番や、給食当番など皆のために働くことはやって当たり前なのだ。しかも、班のため、クラスのため、学校のため、先生のために働くことが奨励されており、早くから社会性の高い労働に価値があると訓練される。

反面、「稼ぐこと」については一切触れない。「稼ぐこと」については無視されているか、むしろ「悪」だという雰囲気までできている気がする。自分たちが生活に必要なお金が社会でどう巡っていて、贅沢をするために必要なお金をどう獲得するかという視点は教室ではほぼ、ない。勤勉に勉強し、会社に就職しても勤勉に働いていれば、問題はないはずだという空気である。私が覚えている限り、唯一の例外が高校3年生のときのある現代社会の授業だ。うる覚えではあるが、資本主義と共産主義の比較の話をしていたのだと思う。そういう教科書的なテーマではあったが、学校の先生の給料のこと、高校の授業料の使い道のこと、高校を卒業した生徒がいくら稼がないと投資対効果がマイナスになるかなどを赤裸々に語ったのを覚えている。自分の記憶力と注意力の問題もあるとは思うが、「稼ぐこと」が社会にとって、自分にとってどういう意味があるのかを、日本の学校現場で聞いたのはこのときだけである。

 

稼ぐことが尊い米国

逆に米国では、「働く」ことを教えることはない。しかし、レモネードやブラウニーを手作りし、近所の人たちに売ることで「稼ぐ」ことは小さい頃から行い、賞賛されている。初めてそのようなアメリカの習慣に触れたときは、たぶん7〜8才だったと思うが、かなり戸惑った。どうしたらいいかわからなかったし、同い年の子どもが難なく目標の数倍のブラウニーを売り切った様子を見て驚きしかなかった。また、売ったブラウニーの売上高は競ったとしても、ブラウニーの出来栄え、作ったブラウニーの数、といった内容では競争がなかったことは、今から思うと凄い。

さらに、小学生で株式投資について学んだ。株とは何かを教えてもらった記憶はないが、とりあえず興味を持つようにバーチャル投資を行う授業があった。銘柄を一つ決め、その株価を毎日株価を教室に張り出すだけだ。もちろん、小学生には本当の意味で株を理解することを期待してはいないだろう。だが、何らかの興味を持って市場を眺める準備にはなる。新聞の株価欄にあった当時米国でも上場していた数少ない日本企業を見つけ、それを毎日追っかけたら結構上がって、日本人であることを誇りに思ったものだ。

日本からアメリカの学校を見て、明らかに無いものは3つある。1つは給食。もう1つは掃除、最後の1つは日直だ。日本では、給食の前には給食当番が給食室まで取りに行き、配膳をし、下膳をする。掃除も当番が教室の箒がけや雑巾がけをする。日直は、クラスを代表して黒板消し、挨拶、その他、先生の身の回りのサポートをする。アメリカでは給食はそもそもなく、家からランチを持参するし、掃除は生徒が下校したあとに業者が行う。日直という担当はおらず、クラスのための仕事というのもない。

 

「働くこと」と「稼ぐこと」

つまり、極端な言い方をすれば、日本では働くことが奨励され、教育されている反面、稼ぐことについてはほぼ放置。アメリカは逆に稼げばよくて、働くことなんぞは教えてもくれない。

外国人が日本に来ると、日本人の勤勉さに驚き、電車が定刻通りであることに驚き、日本人が外国に行くと当たり前だと思っていた仕事がなされないことに驚くのはあまりにも典型的だが、こんな背景があるのではないだろうか。勤勉さなら日本賞賛で済むところだが、稼ぎの低さについても密かに驚かれているのも事実だ。「このハイ・クオリティならもっと稼げる」と感じる外国人は少なくない。

決して働かずに稼ぐことを賞賛したいのではない。「働く」こと自体に美徳があることは私も認めるところだ。働かずに儲かったとしても、まさに「悪銭身につかず」「Easy come, easy go」。しかも、楽して稼ぐ「うまい話」を聞いて、泥沼に陥る話はあとを立たない。

しかも、「働く」ことは、大人になってから身につけにくい。「働く」ということは習慣に近いからだ。稼ぐことはその結果でしかない。さらに、一定額を越えると、稼ぎが増えても幸福感は増えないという。社会に貢献した仕事を継続してする方が、幸福感が得られという研究結果も数多くある。

「働く」ことだけを奨励し、「稼ぐ」ことを忘れると人はブラックになる気がします。

「稼ぐ」ことだけを奨励し、「働く」ことを忘れると人は不幸になる気がします。

 

 

Written by Shingo Tsuda on 2018-09-06

EdTechがスキル習得を超速化した世界で

トーマス・アンダーソンは、大手ソフトウェア会社のメタ・コーテックスに勤めるプログラマである。しかし、トーマスにはあらゆるコンピュータ犯罪を起こす天才ハッカーネオという、もう1つの顔があった。平凡な日々を送っていたトーマスは、ここ最近、起きているのに夢を見ているような感覚に悩まされ「今生きているこの世界は、もしかしたら夢なのではないか」という、漠然とした違和感を抱いていたが、それを裏付ける確証も得られず毎日を過ごしていた。(Wikipedia – マトリックス(映画))
20年前に公開されたSF映画「マトリックス」の冒頭のシーンです。

 

マトリックスの世界では、何かを習得するために学習や鍛錬は行わず脳への直接の ”インストール” が常識となっています。武道の心得はなかったネオも、カンフーの極意を”インストール”することで長い修練を省略して非常にハイレベルな体術を一瞬で身につけています。

 

似たコンセプトを実現するSFの道具としては、ドラえもんの暗記パンもよく知られていますね。私も22世紀を待たずして、マトリックスやドラえもんの世界が早く実現すると良いなぁと本当に思います…

 

22世紀をうらやむ一方で2018年の現代においても、スキルの習得に必要な時間・コストを(一瞬でとは行かなくても) 半減させるためのイノベーティブなサービスが次々登場しています。

 

EdTech – 人間の進化を加速するテクノロジー –

 EdTechという言葉が登場する前(2005年頃でしょうか)”教育とテクノロジー”というキーワードからは、以下のようなソリューションが連想されていました。
  • オンライン授業
  • 電子黒板
  • 電子教科書
どちらかと言えば「効率的に教えたい」「楽に教えたい」という教える側のJジョブにフォーカスしたソリューションが多いですね。今ほど、テクノロジーがパーソナルに活用されていなかった当時は、テクノロジー導入の主体が学校や企業であっためでしょう。

 

一方で現在は、情報技術をパーソナルに活用できるインフラが整備されたこともあり「楽に知りたい」「効率的に身につけたい」という学ぶ側のジョブに応えるソリューションが教育領域におけるイノベーションの主役となっているようです。

 

例えば、世界に名だたる有名大学の講義のオープン化し推し進めるコーセラ、アジア発のユニコーン企業として知れるオンライン英会話サービスのvipabc、予備校ビジネスの黒船的存在として勢力を拡大するスタディサプリのようなサービスを利用することは、学ぶ側にとっての当たり前の選択肢の1つとなりつつあります。

 

ジョブ理論を用いてこれらのサービスを分析すると、金銭・アクセス・時間・学習の管理などのBを著しく低下させることによるイノベーションが進んでいると状況を捉えることができます。

 

【余談】

こうした教育領域におけるイノベーションは、EdTechというキーワードでまとめられて盛り上がりを見せています。しかし、”学ぶ側のJOB”にフォーカスしたこれらのイノベーションは、”学習領域におけるイノベーション”という表現をとって、Learn-Tech(?)のほうがその本質を捉えている…と、私は感じるのですが皆さんはいかがでしょうか?

 

自分がうまくいった生き方が、子供の時代でも通用するとは限らない

…ということがいつの時代も言われるものですが、EdTechによって徐々にスキルの習得が容易となっていく世界では、この言葉の重みはより増していくものと思います。

 

例えば、EdTechの進化によってマトリックスの世界のように歯医者にでも行くような感覚でベテラン弁護士並みの法律に関する知識・経験をインストールできる世界に到達してしまえば、弁護士は職業として成立しなくなるでしょう。

 

そこまでの変化はすぐには起こらないとしても、学びが効率的に行える環境が整うということは、マトリックスのような世界に近づいていくということでもあります。つまり、EdTechの進化によって「しっかりと勉強した」「長い経験を積んできた」ということを基盤としたスキルや技能のコモディティ化も進んでいくということです。

 

資本主義の世界で「価値の源泉」となるのは、希少性 (需要に対する供給の不足) が見られるモノやコトです。したがって、単にスキルがあるとか知識や技能があるというだけでは、価値ある人材とは見なされなくなっていくはずです。

 

これまでの世界では、真面目にコツコツと努力や訓練をして価値ある知識や経験を蓄積できた人間が価値ある人材でした。しかし、進化したEdTechが前提にある世界ではそのようなロジックは通用しません。これはまさに…

 

自分がうまくいった生き方が、子供の時代でも通用するとは限らない

 

いうことに他ならないでしょう。それではこれからの世界において、どのような仕事が価値をもたらすようになるのでしょうか? 1つ、仮説と実例を示すことはできます。

 

マトリックスの先を行くイノベーター

その仮説とは…

 

進化したEdTechが前提の世界で活躍するのは、以下の4つのタイプの人々ではないか?

 

というものです。

  • アーティスト
    • 「自身が意味を感じる」ということをコアにして活動する
  • ビジョナリー
    • 未来志向で進むべき方向を柔軟にかつ構造的に示す
  • イノベーター
    • 前人未到を実現普及させるために奮闘する
  • コーチ・ファン
    • イノベーター・ビジョナリー・アーティストの信念を理解しサポートする

アーティスト・ビジョナリー・イノベーターは既存の価値体系にとらわれない原理に基づいて行動します。その姿はいわば「火がついた(そして狂った)人」とでも表現することができそうです。

 

そうした人々の活動は既存の価値体系から外れたものですが、人間の能力開発にまで合理化が進んだ世界においては、むしろ既存の価値体系から外れているが故に希少性を帯びることになり、価値の源泉となりうるのではないか?

 

というのが私の仮説です。仮説ではあるのですが、これを裏付ける日本人にとってはあまりに有名すぎる実例もあります。あえて詳しくは書きませんが、200X年にとある少年の人生に火をつけたのビジョナリーはエフゲニー・プルシェンコ氏でした。約10年を経た現在、少年はアーティストとして成長しいくつもの前人未到を達成するイノベーターとして活躍し数億人の心を勇気づけるという巨大な価値をもたらし続けています。

 

彼のように火がついた人間を支えるのは、(説教臭い表現になってしまい嫌なのですけど) 個人の精神性、感受性、想像力、情熱、モチベーション、フィジカルといった力、さらにはコーチのサポートやファンの共感といった社会的な力ではないでしょうか。

 

「簡単にインストールすることができる力を身につけて、時間を切り売りする」人生のほうが合理性がありますが、そのような労働力はコモディティ化してしまいます。したがって、大きな価値を生み出そうとするのであれば、とある少年のような火がついた人生を生きるしかないということになります。そして、スタートアップの世界におけるそうした人たちに世界最高のサポートを提供し、誰よりも大きな声で応援するのがINDEE Japanの役割だと考えています。

 


どうすれば誰もが人生に火がつくきっかけに出会い、火がついた人生を生きる事ができるのか? 応援する仲間を増やすことができるのか? 私達もまだ構造化してお伝えすることができませんが、そこにアプローチする活動は既に初めています。

 

以下のイベントもその一環です。
イノベーションの源泉となる人の持つ力のような、イノベーションの“上辺だけの体裁”ではないディープなテーマにもご興味をお持ちの皆様に、ぜひご参加をいただければと思います。
Written by Hiroshi Kato on 2018-08-23