7分36秒で理解するジョブ理論

イノベーションやテクノロジー関連のトレンドを知るために参考にしているサイトの一つに、レクサスのブランドサイトがあります。先日、そのサイトにジョブ理論を紹介する音声つき記事が掲載されていました。

 

わずか7分36秒の音声コンテンツですが、初めてジョブ理論を知る方にとっても明快な解説がなされています。

※ ジョブ理論は 片付け理論として紹介されています。

 


 

私は「ミルクシェイクとカーラジオと自動運転」は、「運転の退屈を紛らわす」という価値創造の面では競合しているんだなぁ…なんて考えながら聞いていました。

自動運転が十分普及すると、自家用車で移動しながらでも退屈しない方法(例えば、You Tubeを見る) ができるようになるので、カーラジオやミルクシェイク今ほど需要されなくなるだろうという仮説を立てることはできそうですね。

あなたは、どのような感想を持ちましたか?

 

サブチャネルとしてのヒア

話は変わりますが、先日あるお気に入りのYoutuberが「ラジオは完全にオワコンで、今更全く価値もない」と発言しているのを聞きました。

彼のことは応援しているのですが、視聴者の状況の理解の面では”ずれている”と感じたことを覚えています。彼は、視聴者が動画を再生している時間の7割程度は画面を見てくれているという意識で放送しているのでしょう。

 

しかし、私が彼の動画を視聴するとき画面を見る時間は1割もありません。なぜなら動画を視聴するのは、家事する時であったり、運転する時であったり、運動する時であったり、買い物をする時であるからです。(彼の放送は視覚的にはそれほど面白いものでもないので、このような消費の在り方が特殊なわけではないと思います。)

要するに、私は彼の動画を「ながら」という条件付きでしか消費しないということです。つまり、彼がオワコンと言ったラジオ的な消費形態で彼のコンテンツが消費されているということです。

 

私が様々な”別のこと”をしながら動画を視聴したように、”ヒア”にはユーザーの状況依存性が低く、何か別の目的のために別の行動している人に対しても、情報を届けることができるというサブチャネル的な特性がありそうです。

 

レクサスのポッドキャスト

レクサスは今回紹介したような記事を、今ではあまり目立つこともなくなったポッドキャストで、わざわざ配信し続けています。

しかも、品質面で厳選されてはいるものの、内容はテキストアップロードされる記事の読み上げでポッドキャスト限定の情報を提供しているわけでもありません。

 

担当者はヒアラブルにする事で、Youtuberにとっての私のように、サブチャネルからしかアクセスできない顧客と関係性を築くことができることを理解しているのでしょう。レクサスの場合は、運転者との関係性を築くことが具体的な目的となるでしょう。

 

ヒアラブルに秘められた可能性

2018.8現在、audibleなどに代表されるヒアラブルサービスは国内ではそれほど流行っていません。しかし、車通勤が中心のアメリカなどでは多くのユーザーを獲得しています。

 

確かに、通勤通学者の多くが公共交通機関を利用する日本では、通勤通学の場面でヒアラブルの入り込む余地は、相対的に少なくなってはしまいます。しかし、スマホなど組み合わせて屋外で利用する無線ヘッドフォンの普及が急速に進んでおり、都市部では食事や買い物、運動をしながら音声コンテンツを消費する人々の姿も多く見かけるようになってきています。彼らに支持されるようなコンテンツをヒアラブルで提供できるサービスには期待が持てそうです。

 

また、コンテンツの作成者にとってもヒアラブルコンテンツは魅力的です。まず、最低限テキストと読み手が用意できれば制作できるため、動画コンテンツがよりも制作負荷が低く抑えられるという利点があります。さらに、AIや自動読み上げのテクノロジーを駆使して、リアルタイムにパーソナライズされたコンテンツを提供することもそれほど難しいことではないでしょう。

今後は、AIを通じて人間に何かを指示したり、情報を提供するという使い方もホームスピーカーより一歩進んだパーソナルな状況判断を踏まえたサービスの実現が期待できそうです。

 

もちろん、レクサスのように”ヒア”というサブチャネルを通じてユーザーと関係性を築くというマーケティング手法も、より強いトレンドを形成していくことでしょう。

 


 

INDEE JAPANでは、イノベーションの実現やジョブ理論の実践を支援するため、ジョブ調査・テクノロジーコンサルティング・サービスデザイン・人材開発・スタートアップ支援・協業先探索などの各種サービスを提供しています。

ご興味ありましたらぜひお気軽にお問い合わせください。

Written by Hiroshi Kato on 2018-08-15

なぜハードウェアスタートアップは“ハード”なのか?

さまざまなスタートアップが存在してしかるべきなのですが、なぜかITスタートアップの方が「成功しそう」だという世間の評判があるようです。
ハードウェア系のスタートアップは文字通り「ハード」だという評価は軒並み共有されているので、特に反論はしませんが、なぜそういう評価なのか?そしてどうやったら「よりイージー」になるのか?考えてみたいと思います。

ちなみに知らない人もいるかもしれませんので、ハードウェア(Hardware) という言葉は難しいということではなく「硬い」、つまり変更が効かないということから生じた単語です。ソフトウェアは柔らかく変えやすいという意味になります。ハードウェアの制御ソフトウェアなど、その中間に位置するものを「ファームウェア」(firmware=しっかりとしていて変えにくいが変えられる)と呼ぶこともあります。

 

表面的な理由

ハードウェア開発を前提とするスタートアップが難しいとされる第一の原因は、資金調達が難しいからです。ハードウェアはソフトウェアよりも開発に時間もお金も掛かります。したがって、投資家にとって大きなコミットをしなくてはいけない案件になってしまいます。仮に大きなファンドを持つ投資家がいたとしても、数多く存在する他のIT/ソフトウェア系スタートアップに投資を分散させた方がポートフォリオが健全化します。少額しか投資できない投資家にとっても、他の投資家も投資してくれなければ開発が途中でストップしてしまう大きなリスクを抱えることになります。アーリーから投資するVCはリスクに対して極めて寛容であるにも関わらず、ハードウェアへの投資に距離を置く方も多いです。

その結果、ハードウェアスタートアップに投資するVCはIT系と比べると極端に少ないのが現状と言わざるを得ません。

 

なぜなのか?その1

では、なぜVCがハードウェアを避けるのかを観察してみました。すると、2つの理由がありそうです。

1つは、「技術がわからないから」というものです。確かに、ハードウェアスタートアップを始める起業家は技術的な特徴を軸にしているケースが多いです。そうした起業家に出資を検討するVC側はどうでしょう。一般に思われているように、多くのVCは「技術」の目利きをしているわけではありません。ベンチャーキャピタルは投資業ですので、投資に対するリターンの目利きをしているのです。そのため、テクノロジー企業に投資を行うVCは技術を一定レベルで理解できているものの、コードを書ける人は稀です。ただ、投資検討の対象となるIT系スタートアップの数が多いため、起業家と投資家のコミュニケーションに一定のパターンが出来上がっていて、こうしたスタートアップに対するVC側の理解力は優れています。つまり、共通言語も多く、成功事例も多いため、「わかりあえる」状態になりやすいということです。逆に、ハードウェア起業家が投資家と「わかりあえる」と思える経験が少ないと感じている状況は数多く見かけます。その結果、起業家は「わかってもらえない」と自信を失い、VC側もハードウェア系は「わかりにくい」と判断してしまいます。ハード系のスタートアップが支援者を得るには、コミュニケーションが大切なファクターになっているように見受けられます。

2つ目が、ハードは「成功しにくいから」というものです。「ハードである」ということを繰り返しているにすぎませんし、成功しにくいから投資をしないというは「予言の自己成就」のような状況ですね。これを乗り越えるためには「成功しそう!!」だということを感じてもらうしかありません。

 

なぜなのか?その2

上に挙げた2つの理由は、投資をする側の「評価」の問題です。したがって、仮にVCときちんとコミュニケーションを取って、信じてもらい、出資を得られたとしても、「ハードである」という評価に至るロジックを理解しておかないと、本当に成功することはできません。

それでは、ハードウェアを含むサービスを作ることがIT/ソフトウェア系サービスとと比べて大変なことを挙げてみたいと思います。

  • 物理法則に支配されている
    例えば、温度センサー一つとっても、質量を持ち、比熱があり、熱容量があるので、計測データにラグが発生します。ユーザーが落とせば壊れ、輸送中に破損したり、生産中にとんでもないミスが発生することもあり得ます。電子レンジの近くで変な動作をしてしまうのも物理法則であって、ビジネスのロジックではありません。ハードウェア開発をしていて、一番難しさを感じるのはこういう物理法則的な壁にぶち当たったときです。
    しかし反論すれば、どんなITサービスもハードウェアを必要としていて、物理法則を免れません。言い換えると、スマホやサーバーの所為にすることはできたとしても、無茶な運用を強いるようなITサービスは高くついたりUXが悪くなるので、お客さんは離れてしまいます。
  • ものづくりに時間がかかる
    一概に言えないかもしれませんが、時間が掛かるケースが多いです。プロトタイプまでは早くできても、量産金型を作ったり、数に対応するには時間がかかりますね。ソフトウェアであっても、AI系のサービスは本格的に開発しようとすれば結構時間が掛かりますし、人気のあるサービスを運用するならプロトタイプよりも堅牢な作り込みに時間が掛かるので、程度の差こそあれ、量産化に向けた時間はどちらもあるのではないでしょうか。
  • いずれ製造コストの安い競合に市場を奪われる
    これまでの日本のエレクトロニクスはそうでした。類似機能を持つパクリ製品が出回り、価格競争を強いられたり、価格を維持したままだと市場を奪われたりということが起きてきました。しかし、これはハードウェアに特異な問題ではないと思います。毎月リリースされるアプリの数を見ていると、類似品ばかりですし、顧客にお金を払ってダウンロードしてもらっているものも散見されます。問題はいかに顧客にとって必需品となっているかであり、それがハードウェアなのかソフトウェアなのかサービスなのか、ではありません。
  • スケールするための投資が必要
    ソフトウェアの最大の特長は「再生産に(ほとんど)コストがかからない」ことです。1人にアプリを配るのと、1万人にアプリを配るのと、文字通りコピペ同様の作業で済みます。しかし、ハードの場合は1人にデバイスを配るのと、1万人に配るのとではまったく世界が違います。もちろんそれだけの部材を手配しなくてはなりませんし、生産するための要員や生産設備を用意しなくてはなりません。ファブレスといくら言っても、工場を探し、図面のやりとりを行い、納品をしてもらわないといけません。このバリューチェーンをコントロールするのはやっかいなオペレーションを必要とします。
  • ピボットができない
    個人的にはこの理由がスタートアップにとって、もっとも難しいポイントだと思っています。リーンスタートアップを実践しようにも、仮説検証をするチャンスが少ないのがハードウェア系スタートアップの特徴です。MVPやプロトタイプだけを比べても、ハードウェアを開発するにはそれなりの時間とお金が掛かります。無事シードで資金を調達できたとしても、相対的にバーンレートの大きいハードウェアスタートアップは数少ないピボットでプロダクト・マーケット・フィット(PMF)を達成しないと成功できません。多くのハードウェアスタートアップを見ていると、ピボットはもちろんのこと、設計改良を1度もしない想定で資金計画をしています。ITスタートアップですら、1度の開発でPMFに到達するのは至難の技だというのにです。そんな至難のPMFをするためのシード期の調達となると、投資家が控えてしまうのもやむを得ないでしょう。シードやアーリーに出資するVCが投資するときに、起業家本人やチームを重視するのも、スタートアップには大なり小なりのピボットが不可欠だからです。

ではハードウェアスタートアップは難しいだけなのか?

こうやって書いていると、ハードなスタートアップはやるだけ無駄のような印象を与えてしまうかもしれませんが、一方で得られるメリットも大きいです。いくつか挙げましょう。

  • 参入障壁を築きやすい
    上記のように取り組みにくいということは、参入したいと思う競合も少ないです。製品だけでなく、素材や加工工程など、バリューチェーンの色々なポイントで参入障壁を築くことができます。特許などの効果も期待できます。
  • ライフスパンが長い
    製品開発に時間が掛かるということは、一つの製品の寿命が長いということでもあります。開発時には足枷だった時間が、市場を築くことができれば有利に働きます。
  • 価格の妥当性を訴求しやすい
    アプリはタダとか100円といった染み付いた価格感を顧客に持たれています。一方でハードウェアはそれなりに費用を支払うものだと顧客は認識を持っていることが多いです。産業機器などの大型ハードウェアなら1台1億といった価格帯も可能になります。サブスクリプションで課金するにしても、SaaSなどの「使用料」よりもハードウェアの「レンタル」の方が、ユーザーにとって直感的です。
  • わかりやすく普及力が高い(タンジブルである)
    プロダクトに重さと形があるということは、売り物が明確だということです。つまり国や文化を超えて普及させやすいのではないでしょうか。母国語が英語ではない私たちにとって、「サービス」が国境を超えるには翻訳が必要ですが、かつての自動車産業が世界を席巻したように、ハードウェアにはあまり翻訳作業は必要ありません。タンジブルで雄弁なプロダクトがあるからです。
  • いずれはハード+ソフトの総合競技になる
    グーグルの検索はソフトウェアサービスですが、自前で堅牢かつ高速なハードウェアシステムを組み上げているからこそ保てているサービスレベルです。ドロップボックスもサービスとして普及したものの、AWS頼りでは採算性も独自性も保てないという懸念がありました。そこを自社システムを持つことで上場に至っています。インテルは半導体を売っていますが、チップセットを含めたOSの在り方に知見があるからこそできるビジネスです。最近の車は自動運転を視野に入れたソフトウェア開発に躍起になっているようですが、すでに社内エンタメやナビゲーションなど、ソフトウェアが顧客満足度に占める割合は高くなっています。これらの例のように、最終的にハード+ソフトの総合競技になっていきます。ならば、より顧客に認識されやすく、基盤となり得るハードウェアに遅かれ早かれ強みを持っていたいものです。

じゃあ、一体どうしたらよりイージーになるのか?

  • 技術の価値を顧客の目線でとらえる
    ハードウェアを利用する場面を顧客の目線で捉え直します。顧客にとって解決するのが難しいジョブなのでしょうか。そうでなければ、もっと難しいジョブがあるかどうか探すのも一手です。とっても重要で難しいジョブを片付けるには顧客は高いお金を払いますし、あまり重要でなく困っていないジョブについてはお金を払いません。
  • MVPの構想を慎重に行う
    アイデアの検証にいきなり製品を開発したくなるのですが、グッとこらえたいところです。スタートアップには「ビジネスモデルの実験」という要素がありますので、実験は実験らしく工夫が大切です。工夫というのは、MVPの仕様をダウングレードするだけではありません。既存プロダクトとのハイブリッドで価値が伝えられたり、一切モノを作らないで検証したりすることもできます。
  • プロダクトのソフトウェア部分等、切り出したビジネスモデルを視野に入れる
    前述したように、ハードウェアビジネスの方がバリューチェーンが長くなります。裏を返せば、切り売りできる部分もあるかもしれません。顧客のジョブによっては早期にマネタイズできる部分と、長期的にプラットフォーム化していく部分を分けて考えられるケースも多いです。こうしたオプションをなるべく早く(大きな投資をする前に)検討し、実現性を検証していくことが大事です。
  • (宣伝にもなりますが)アクセラレーションプログラムを活用する
    いろんなMVPやビジネスモデルの引き出しを持っている人たちと早くから話をするのは、特にハードウェア系スタートアップにとって重要なことだと思っています。なので、Kawasaki ZENTECH Accelerator ZENTECH DOJO Nihonbashiを始めたということもありますが。スタートアップは仮説検証が重要ですが、検証の機会が限られているなら、最初に立てる仮説の重要性がことさら高まることは理解できると思います。

 

ZENTECHってどんなことやってるの?って聞かれることも増えたので、少しハードな点を書かなきゃ…と書き始めたのはよかったのですが、だいぶん長くなりました。

ちょっと長くなりすぎましたが、皆さんの思うところも気になります。ご意見お待ちしています。

Written by Shingo Tsuda on 2018-07-17

自転車に乗ることと、乗っている自転車を操縦すること

自転車に初めて乗るとき、計画は立てたでしょうか?
PDCAを回したでしょうか?その計画を両親にレビューしてもらったでしょうか?
目標を時速15kmなどと定量的に示しましたか?

 

目標はただ一つ。乗れるようになるだけ。

一方で、乗っている自転車を操縦し、毎日20km先の学校に遅刻せずに行かないといけないとしたら(再現性)?あるいは、なるべく寝坊できるように、短時間で学校に行くには(効率性)?
その場合は、ちゃんと地図を見て、計画を立て、ペースもコントロールしないといけないでしょう。親にその経路を見てもらえば、交通量の多い道や危ない道について教えてくれるかもしれません。

乗っている自転車を目的地まで操縦するための技術と、初めて自転車に乗る技術を混同してしまってはいけません。自転車を漕いだことがない人に地図は不要なのです。

イノベーションや新規事業の立ち上げ方には数多くの情報があります。一定の法則があって、あたかもシステマティックな手法に沿って実行すれば成功するかのような印象を持たれる方が増えてきたように感じます。しかし、これらの手法は自転車で言うと、補助輪付き自転車やストライダーのようなものです。
どのような段階を踏めば、自転車で自立することができるのか?どのようなバランスの取り方、筋肉の使い方をするのか?
そして大事なのが、怪我をしない転び方。
それよりももっともっと意味があるのが、自転車を好きになれるかどうか。ストライダーが大好きなら、自転車はもっと好きになるはずです。

リーンスタートアップ、JOBSメソッド、ファーストマイル・ツールキット。これらの手法は大怪我をせず、ビジネスの喜びを最大限にする道具です。

 

 

4コママンガ:瀬川秀樹さん作

Written by Shingo Tsuda on 2018-06-21

なぜリクルートのリボンモデルが成立するのか?

stsuda
2018-06-18

Twitterを眺めていたら、リクルートについてのこんなツイートが目に留まりました。

 

 

リクルートのさまざまなサービスはB2B2C型のプラットフォームになっていて、これがある意味、勝ちパターンとして伝承されている訳です。プラットフォームは自社を中心に異なる2つの顧客を持ち、それぞれに価値を提供できないと成立しないモデル。図で描くのは簡単だけど、築くのはとっても大変なビジネスです。

そういえば、そこまでじっくりリクルートのモデルを見たことがないな〜と思ってじっくりとリボン図を見てみると・・・そこには「図」以上の秘訣が隠されていたのです。

例えば、スーモを見ると、「住宅を探す個人」というくくりの中に、

  • “職場に近い街でひとり暮らしをしたい”
  • “子供が生まれたので緑の多い郊外で広いマンションか戸建を買いたい”
  • “中古マンションを買ってリフォームしたい”

という顧客のジョブが書いてあるではないですか!!
ざっくりと「住宅を探す個人」という静的なニーズ表現のままだと、色々と不都合があります。

 

例えば、

  • なぜ住宅を探すのかが曖昧だと、あからさまに探している人だけがターゲットになり、他のメディアと熾烈な競争になる
  • どんな業者がどんな観点で広告を出せばいいかわからない
  • 記事編集者も「住宅」の紹介ばかりで、引っ越しやら暮らし、リフォームなどへと消費者が求めている情報へとアンテナが立たない

ここで取り上げられているジョブは、多く発生し、既存のサービスでは面倒だったり満足度が低いものばかりです。

 

ゼクシィーだと、以下のようになります。

  • “テラスのあるレストランでアットホームなパーティにしたい”
  • “都心のホテルでこだわりのウエディングにしたい”
  • “指輪も自分たちの希望に沿ったものを選びたい”

と、結婚する人たちがどんな体験を望んでいるのかが一目瞭然です。顧客のジョブに気づかずにいると、レストランなのかホテルなのかという場所だけの提供に終始してしまいがちです。「アットホームなパーティ」と「こだわりのウェディング」では、全体としてのサービスは相当変わってくるのは想像に難しくありません。IRにまで言えるほど浸透して入れば、そのジョブの違いを意識した情報提供、紙面づくり、企画、などなどが可能になるんですね。

atd2018ICEで感じた3つのこと

ASTDの頃から参加しようと思いつつ、周りから話を聞くだけに終わっていたatdに参加してきました。今年のatd2018ICE(International Conference & Expo)は5月6(日)~5月9日(水)に米国カリフォルニア州サンディエゴのサンディエゴ・コンベンション・センターにて開催されました。今年は設立75周年、しかも基調講演が元アメリカ合衆国大統領のバラク・オバマ氏ということもあり、参加者の合計は13,000名と過去最高となりました。日本からの参加も昨年より大幅増加の269名、米国外からの参加者2,450名の中では、カナダの349名、韓国の298名についで3番目でした。

atdはまだまだ日本での知名度は低いものの、世界最大級の人材開発、組織開発、トレーニング等のプロのための非営利団体です。atdの前身であるASTD(American Society for Training & Development=米国人材開発機構)は1944年に設立されている。1945年、日本でいう終戦の前の年から脈々と活動が続いていることに改めて感動しました。

全体感に関しては多くの方がレポートしていると思うので、自分が感動したポイントに絞ってお伝えします。結論としては「人材開発、組織開発、トレーニング等に関わる人は参加すべきイベント、現地でしか感じ取れないものがある!」ですが、想定と違い期待を超えていたことを3つあげます。

・大規模なのに、寄せ集めではない、目的を持ったプロの集まり
・発表会ではなく、研究会である、しかも象牙の塔では無い
・セッションとエクスポの両面でトレンドを一覧できる、日本からの出展はゼロ!?

 

大規模なのに、寄せ集めではない、目的を持ったプロの集まり

とにかく規模がでかい。日本国内でも人事関連のイベントはあるが、1日の来場者として数千名規模のものが多い。しかも、一般の参加者はほとんど無料なので、展示会に集客のためのセッションが付いているという感じが否めないが、atdはセッションだけで、14種類のトラックに分かれて300以上のコンカレントセッションがある。そして同時開催のエクスポのブースは400を超える。そこに有料の参加費を払った参加者が13,000名なので、小さな街がコンベンションセンターに移動してきた感がある。

帰りのLYFTのドライバーに聞いたのだが、Comic-Con(コミックブックのコンベンション)では50,000人以上が集まり、タクシー等では身動きが取れなくなるらしい。当然街中のホテルも満室になり、参加者の多くは数十キロ離れた街から通うようだ。こうした状況を目の当たりにすると、Airbnbが生まれたのも必然と感じられる。

これだけ大規模になると、どこで、どんなセッションがやっているのか?効率よく回れるのか?と不安になるが、事前説明会での忠告に従い、アプリをDLしてタブレットに回ったおかげで、お目当てを逃さずに回ることができた。この辺りのロジスティクスは流石に洗練されていると感じた。過去から脈々と改善されてきたのだろうが、おかげで初めての参加でも快適だった。

イベント当日のためだけのツールととらえるとアプリは冗長なのかもしれないが、参加段階で計画を立てたり、スピーカーの著作を探したり、セッションのハンドアウトを共有したりと、アプリは大活躍だった。要はちょっとしたLMSである。こうした仕組みが目的を持った学習者としてイベントに参加する上では非常に役立った。atdは単なるイベントではなく、学びのプラットフォームであることを納得した。

当然多くのスポンサーがいるものの、商品・サービスの宣伝という色はほとんど感じなかったのも、atdとしてのテーマがきちんと打ち出されていて、寄せ集めではないところが理由だったのかもしれない。いわゆる教育ベンダー側も、エコシステムを支える一つとして機能していると感じた。ブースでも無理やりの売り込み感はなく、むしろ一緒にこの会を楽しんでいるようだった。

スピーカーも出展社も参加者もスタッフも、皆が等しくプロフェッショナルとして参加している、稀有な場所だった。

 

発表会ではなく、研究会である、しかも象牙の塔では無い

各コンカレントセッションは概ね1時間〜1時間半、講演、インタラクティブセッション、グループ討議を含むワークショップありと形式は様々だ。きっちり並べられた椅子に座って話を聞くだけというものは少ないし、スピーカーも全員がプロのプレゼンターなので、内容が期待と違ったということはありうるが、事前にハンドアウトや著作などで確認できるので、外す率は少ない。

そもそも、この時間帯はめぼしいものがないということが少なかった。14のセッショントラックで300にまたがる分科会から選ぶのだから、間違わなければ、一定レベルは担保されている。むしろ、参加したいものが同時間に重なっていて悩むことも多かった。

中身に関しては、どのセッションも単なる発表会ではなく、理論的背景があり、かつ、実践的なソリューションを伴っているものが多かった(つまり、使えるナレッジになっていた)ベンダーがスピーカーになっている場合でも、商品説明に終始することはなく、なぜ、そのテーマが必要かという問題提起から始まり、トレンドによる背景の補足があり、最後にソリューションとしてツールが紹介されるという形式だった。「発表会ではなく、研究会である」という理由は、この辺りにある。

例えば、初日の初回に参加したセッションは、elearningbrothers (https://elearningbrothers.com/)の以下のセッションだったが、eLearningにおいてゲーミフィケーションする際に見落としてしまいがちが重要な要素について語っていた。
タイトル:The Hero’s Journey: Exploring Often Overlooked Elements in Learning Games
スピーカー:Richard Vass, Daniel Dellenbach
ベースにあるのはジョーゼフ・キャンベルの千の顔をもつ英雄である。彼らのソリューションはeLearningの制作だが、単にインタラクティブにしただけのeLearningが多い中で、自分たちの違いをシンプルに訴求できていた。

最初は、atdの場でゲーミフィケーション?と違和感を覚えたが、人材開発に関わる人はテクノロジーには関心を持ってい無いという自分の完全な偏見だった。テクノロジーをツールとして利用するだけではなく、AIが人間の仕事を奪うと言われるような世界の変化の中で、タレント開発に関わる自分たちが仕事を再定義しなければならないという危機意識を持っていることに視座の高さを感じた。Together We Create a World That Works Better(共により良い世界をつくる)というatdのミッションに改めて共感した。

 

セッションとエクスポの両面でトレンドを一覧できる、日本からの出展はゼロ!?

「日本人から、あの、NTTか?」と聞かれることが多いと言っていたNTT Training inc. (NATIONAL TECHNOLOGY TRANSFER, INC.) Learn by doing をモットーとする技能伝承の会社です。

 

セッションできっかけを得て、エクスポでソリューションを探す。スピーカーに触発されてブースに足を運ぶ。広い会場を行ったり来たりするのは大変だが、セッションでテーマの全体感を掴み、エクスポでソリューションのトレンドが掴めるのは有益だ。テーマとしては盛り上がっていてもソリューションがなければ、課題提起だけで終わってしまう。最初はエクスポよりセッションを重視していたが、エクスポはatdの重要な要素だと再認識した。

Meet to Eat(交流食事会)で会ったサウジアラビア航空の人は、連続11年参加、4日間をかけてエクスポの全てのブースを周り、翌年の活動のネタとしていると言っていた。誰もがサムシングニューを求めている。それに答え続けていることがatdが75年も続いてきた秘密なのだろう。

残念なことに、日本企業の展示は一つもなかった。国内の展示会ではSI的に日本企業の事情に合わせた出展はよく見るが、世界的に普及させられるような製品が無いということだろう。テーマとしては禅に通じるマインドフルネスや働き方改革の最先端とも言える “ikigai” (生きがい)という言葉を耳にするのに、本来、強みでありルーツを持っているはずの日本は発信できていない。

 

厳しく言えば、「どんなに良いことを言っていても、普及させられることができなければ、存在しないに等しい」、最先端を輸入することも大事だが、せっかく良いものを持っているのだから、周りの情報に踊らされずに、本質的な発信をしていくことが大事だと思わされた。学習者として学ぶことは大事だが、貢献者として発信することにフォーカスしていくべきですね。

 

来年のatdは5/19〜22にワシントンDCで開催

興味がある方は、今から https://www.td.org/ をチェックしておくことをお勧めします。一過性のイベントへの参加ではなく、継続した学習プラットフォームとして活用すれば、その価値は何倍にもなる。そして、イベントへは目的を明確に定めて!そうすれば、収穫が得られることは間違いない!

Written by Tatsuya Yamada on 2018-05-29