津嶋による昨年のこちらの投稿がちょっと前にかなり反響があったので、もう一回シェアしておきたいと思います。

鳥人間チームを立ち上げ、2度の優勝を成し遂げたあと、後進に何を伝えたのか?
人力飛行機というハードコアな勝負の世界で、新しい機体を考案し、つくり、飛ばした裏にあるチーム、設計、実行が過不足なく表現されていると思いませんか?
 

一つ一つの言葉が古くなっていないどころか、長い時間をかけ、変わらない本質がはっきりした今だからより価値を感じるのかもしれません。
学生時代にこれだけのことを言葉にして後進に伝えていることも正直驚きのポイントですが。。。
ものづくりに行き詰まりを感じたり、仲間をちょっとだけ信頼できなくなったり、現状にモヤモヤを感じたり、ちょっと違和感を感じたらぜひ読んで頂きたい文章です。

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Wind Mill の未来を創るために
津嶋 辰郎
 
1 チーム運営について
 今までしつこいほど繰り返している事であるが、「WindMill Club」というのは名ばかりで「クラブ」ではなく「チーム」である。なぜここまで「チーム」にこだわるかというと、活動内容から判断して「クラブ」という形態、または個人の意識レベルではやっていけないという考えがその根底にあるからである。
 ここ2、3年毎年大なり小なりチームのマネジメントにおける問題が生じている。これらのほとんどは「運営」「個人の意識」に問題があるように感じている。しかし、極限状態にある本人たちはその事に気づいていない。そこで、「チーム」とは何か?という事をもう一度考え直してほしい。
 このチームは「エンジニア」としてのトレーニングの場だけでなく、組織のマネージメントの実践の場でもある。リーダーをはじめとする幹部は、このことを常に頭に置いておかなければならない。どういった組織を作るのか、どうやってメンバーの意思統一をメンタルアップをするのか、資金繰りはどうするかなど考えることは山ほどある。これらの事が満たされて、初めてチーウとして機能するようになる。良いチームかどうかは、すべて「幹部」の人間にゆだねられているのである。そう考えると、ボーとしている時間なんか全くない。寝る前、トイレの中、大学の行きかえり、すべての時間を使ってでもチームのことを考えるぐらいでないと、これだけのことを満たすのは無理である。1年ぐらいそれくらいの覚悟が必要であることは意識してほしい。
 あと、必ず必要なのはメンバーお互いの「信頼」である。リーダーは「不在」というのは言語道断。活動には毎日参加するのは最低限のこと、メンバーより数倍は働くぐらいの意気込みが必要である。また、10の努力も1のサボりで帳消しになってしまう。活動がハードなときは「病気」ですら他のメンバーにとっては「言い訳、サボり」の口実にしか感じられないということを意識しておかなければならない。同期のメンバーは比較的簡単であるが、下級生、上級生の信頼の確保は決して容易ではないという事を感じて欲しい。
 次に幹部はこの信頼の下にメンバー一人一人の居場所を確保してやる。「一人一人が活動している。」「チームには自分が必要だ。」という事を感じさせなければならない。そのためには「適材適所」を念頭に、その個人の良さを生かすことができる役割を任せてやる。そういった目を養うことも必要である。
 これらを挙げていけばきりがないが、どこの大学もすべてこのマネージメントの失敗でつぶれている。それだけ、人力飛行機政製作チームの組織の運営が難しいということである。みんな悩んでいる。そういった中、うちがどこでアドバンテージを作るか?それが課題である。
2 設計について
 設計とは定められた制約の中で、目的とする最大の性能を発揮できる妥協点を探る作業である。しかし、様々なトレードオフの関係を考えているうちに、本来の目的を見失っていまうことが多い。そこで設計中は常に以下のことを念頭において欲しい。
  • 目標を達成することが可能であるか
  • コンセプトがハッキリと定められているか
  • 必要パワー、機速、サイズ、形状など…
もう今となっては古臭いものであるが、例として96年のB.B.の設計コンセプトを以下に示す。
  • 高い運動性を持つ
    →上半角を小さ目にとり、静安定を下げる。
    →ラダーの効きを高くとる(垂直尾翼アスペクト比と、翼面積の兼ね合い)。
    →プロペラ後流の速度増分を考慮。
  • 機速をやや高めに設定する (琵琶湖においての正対速度 2m/s以上を予測し 7.5〜8.5m/sに持っていくことを仮定)。
    →翼面荷重をやや大き目にする(リブ間隔との兼ね合いを考慮)。
    →機速によるプロペラの効率との兼ね合いを考慮(必要推力、必要馬力)。
    →○高アスペクト比による、誘導抗力の低減。
    →主翼(尾翼)平面形の検討。
  • 静ボリューム比の極小値の模索
    →静ボリューム比、動ファクターを小さくとってみる。
  • 主翼吹き降ろし、フェアリングの後流のプロペラへの影響を検討
    →できるだけ主翼からプロペラを離す(ドライブシャフトの長さの限界)
    →フェアリングの断面の検討
  • CFRPの軽量化
    →○主桁への曲げモーメント、せん断力、ねじりモーメントの計算。
    →○高弾性HR40の使用。
    →○CFRP強度の検討(積層順番の検討、繊維方向の検討)
  • 高性能プロペラの設計
    →○航技研のプログラムを使用
    →DAE51の採用
 設計者に必要なのは、物事の本質を見極める「目」と経験から導かれる「直感」だと考える。「今何が最も必要なのか?」「どこに最も時間を費やせば良いのか?」どれだけ寄り道せずに、機体が進んでいくべき「ベクトル」を見つけるか?これが重要なのである。これらの判断を下すには、幅広い知識は必要不可欠である。歴代機体、国内に限らず、世界中の機体について、つねにアンテナを張って情報収集は欠かさないようにするのは当然の事である。次に新たな試みをするにあたって、必ず押さえておかなければならないことは以下のようなことである。
  • 人力飛行機の技術的な変遷と歴史的な流れ
  • 歴代の機体の諸元、構造の理由
  • ◯歴代の機体の利点と欠点
  • 新たな試みによるメリット
3 製作について
 このところ作業の効率の悪さが目に付く。これらは「要領」の問題だと感じている。こだわるのもいいが、そのこだわりがどこまで重要かを考えてから作業に取り掛かるべきである。「設計製作:セッティング=50:50」ぐらいで考えてもいいのではないか。特に以下のことを念頭において作業して欲しい。
  • 作業はダイナミックにスピーディーかつ正確に!
  • 重要な部分はとことんこだわる。どうでもいいところはすばやく。
  • 構造や製作方法は修復、時間を考えできるだけシンプルに。
  • ボーっと作るのではなく、新しいアイデアを考えながら。
そもそも設計製作はクリエイティブな作業である。もっと自分のアイデアを盛り込んで、より発展を目指して行うべきだと考える。そのためにはメンバー一人
一人が人力飛行機について、幅広い知識をもたなければならない。ここ数年言いつづけていることであるが、もっと情報に貪欲になってもらいたい。今のM2の代が卒業すると、多くの知識が失われてしまうような気がしてならない。人力飛行機の世界も突き詰めていけば、非常に深くそして発展途上であることが分かると思う。このように感じられて初めて、「設計」をする資格ができたの言えるのではないだろうか。飛行機が分かっていない奴には、当然良いものを設計することはできない。その辺りの認識今のチームには明らかに欠けている。
 人力飛行機は今大きな壁にぶち当たっている。この壁を突破する可能性を持っているのは、君たちのアイデアなのである。今後の発展に期待している。

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