今年1月に亡くなったクレイトン・クリステンセンの偉業を称えて、「クレイトン・クリステンセン賞」なるものができた。「破壊的イノベーション」の概念を打ち出したクリステンセン同様、イノベーションに関する優秀な論文を表彰するものだ。
早速第1回目の受賞が発表され、受賞したゲイリー・ピサノ氏の“The Hard Truth About Innovative Cultures”(イノベーティブな組織の知りたくない真実)の指摘が鋭かったので紹介したい。
その背景として、イノベーションを起こそうとして、ポストイットやTシャツ、スニーカー、オープンなオフィスなど、表面的なところから文化を醸成しようとしたり、「それらしく」振舞おうとする組織が少なくないからだ。しかし、そこにはいくつもの落とし穴がある。ピサノ氏は5つの真実はそれぞれ厳しく、耳が痛い限りだし、実際に実行するのはもっと痛い。真理はいつも反直感的で、実行しにくい。だが確実にイノベーティブな組織づくりに向かうので、ぜひ意識していきたい点ばかりだ。
1.失敗には寛容だが、無能力には厳格
革新的なチャレンジを次々と行うには、失敗は不可避だが、能力が求められる。すべてが成功するとは限らないが、後ろ向きな活動やありきたりのチャレンジを許容していてはイノベーティブな価値観は醸成されない。
2.実験に意欲的だが、型がある
新しい取り組みには多くの不確実性があり、実験は欠かすことができない。だが実験を行うことと、やみくもに色々と試すことの間には明確な違いがある。その違いは「仮説」と「思い込み」や「希望」を区別することであり、「未知」を一つ一つつぶしていくことである。
3.精神的安全性はあるが、ずけずけと遠慮がない
メンバーが精神的安全性を感じると、優れたアイデアが胸の奥にしまわれることがない。また、既定路線に健全な異論が挟まれることで革新的で機敏な組織が生まれる。だが精神的安全性の高い雰囲気をつくろうと、耳障りの良い言葉だけで会話が進む組織も少なくない。
4.コラボレーションはあるが個別に責任を持つ
イノベーションは複数の領域にまたがるため、様々なバックグランドの人たちが協業するのが望ましい。しかしチームで協業するとなると責任の所在があいまいになりがちだ。コンセンサスを重視して、丸まった無責任なアイデアを進めるよりも、それぞれの考えを明確に持つことで、尖ったアイデアが世に出るし、仮説の誤りも訂正しやすい。
5.フラットだが強力なリーダーシップ
フラットな組織というのは、リーダーが不在ということではない。リーダーが現場に深く関与するということだし、メンバー全員とコミュニケーションを取ることだ。多くのメンバーと深く関与し、コミュニケーションを取るなら、それは強いリーダーシップが必要だとも言える。ここで言うリーダーシップは年長だから、といった言い訳が不要なのは言うまでもない。