先日、ニューヨークに行きました。
ニューヨークは、イエローキャブと言われるタクシーがよく流していて便利な街として有名です。地下鉄ももちろん便利なのですが、タクシーなら行きたい場所の玄関まで乗せて行ってくれるので、楽ですよね。
最近は、UBERやLYFTといったライドシェア、つまり白タクも流行っているので、圧倒的なタクシー優位なニューヨークのマンハッタンでどういう違いがあるのか試してみることにしました。
事前の想定としては、3つ。
- いっぱいタクシーが流しているのに、スマホを出してアプリを起動して、行き先を登録する体験って煩わしいんじゃないか?
- LYFTは後から参入した分、UBERより良いサービスを提供しているかもしれない
- タクシー優位の街にUBERやLYFTは十分あるだろうか?
そして、実際に3種類すべて乗ってみての気づきは:
- タクシーは、ドライバーによるバラツキが大きい。空港では、公認のタクシーへの案内なども充実していて確かに乗り易い。逆に、行き先を知らないドライバーも多いし、結局スマホの画面を見せながらナビしてあげることもよくあった。親切なドライバーもいて、移住してきたばかりという雰囲気を出している若者は、一所懸命にフレンドリーに話しかけたり、荷物を持ってくれたりした。しかし、メーターを倒さずに価格交渉をしようと試みてきた輩もいて、ちょっと嫌だ。発展途上国で毎回交渉するのは仕方がないが、先進国の公認タクシーでこれをやられると疲れる。
- UBERドライバーは十分にいる。出かけるちょっと前に呼ぶなら、あまり待たずに車が来ます。ドライバーはみんな礼儀正しく、荷物を積むのもフットワーク軽い。市内の渋滞によって「あと5分」というアプリの表示はあまりあてにならないので注意が必要ですが、もしかしたらわざと短めに表示しているのかも。滞在中雨に振られたが、出かけるちょっと前に配車をして、来そうになったら外に出るとあまり濡れない。タクシーだと濡れながら拾わないといけない。
- LYFTもたくさんある。UBERと掛け持ちのドライバーが多いようだが、看板をつけている車はないので、正確にはわからない。ドライバーは皆親切。UBERよりもアプリは軽い気がする。あまり言語化できないけれど、立ち上げてから予約までの体験はベター。良い車(キレイ&新しい)が多い印象だし、少し安い印象なので、もし総合判定ならLYFTを使うかな。唯一の欠点は、予約ができないこと。早朝のフライトに合わせて車を呼びたいなら、UBERは前の晩に時間指定の配車ができるのでとても便利だが、LYFTにはその機能がまだ実装されていない。
- ホテルリムジン・・・これが最悪。空港に行くためにホテルのベルボーイにタクシーを頼んだ。そしたら、あのリムジンはタクシーと同じ料金だからといって勧めてくれた。ホテルが勧めるなら問題がないだろうと安心して乗ったところ、通常60ドル位のところ80ドル請求された。ちなみに、LYFTなら45-50ドル位だった距離だ。帰国日だし、クレームをする体験も消耗するだけなので泣き寝入りということになるが、ちょっといいホテルのベルボーイだからといって簡単に信用してはいけませんね。多分、一見さんであることを見越したぼったくりなんだと思います。
なぜぼったくりが起きるか?
価格というものは、買い手はなるべく安い方がいいし、売り手はなるべく高い方がいいわけです。タクシー利用者には旅行者が多く、そのため、移動したいという動機は強いです。そこで、タクシーのドライバーという売り手は、払ってくれる範囲内で高い値段を請求するということが起きます。もちろん、法外な金額を請求されて怒る客や、支払いを拒否する客も出ます。あるいは、他のドライバーはもっと安いといってクレームをするかもしれません。ですがタクシーなんて、2度同じドライバーに当たることはとても稀なので、「2度と乗らない!」と脅されたところで痛くも痒くもありません。乗客はタクシー以外の移動手段もないことが多く、ぼられる可能性が高くても仕方なく利用せざるを得ないケースが多くなります。
一方で、ドライバーはいつも同じ街を走っています。当然、ドライバー同士はコミュニケーションを取っています。あの客はいくら払ってくれたとか、ロシア人は怒ると払わないとか、どんどんノウハウが溜まっていきます。そんな知恵を身につけたドライバーによるいわゆる「ぼったくり」が横行しても何ら不思議はありません。
ぼらないドライバーが一番損
そうかと思えば、品位のあるドライバーもいます。プロ意識からとても誠実なドライバーや、ぼったくりが行われると街全体の魅力が下がり、旅行者や出張者が減るといった長期的で全体的な影響を気にしているドライバー。彼らはお客さんとの関係を一期一会の精神でしっかりとしたサービスを行うことで、その評判が街全体へと波及することを知っています。ですが、そういう意識の高い人は残念ながら一部です。意識の高いドライバーが良い評判を作り出し、ぼったくるドライバーがその評判を換金するとも言えます。
例えば、日本のタクシーでぼられることはあまりないです。そうすると、日本のタクシーは優良なドライバーが多いという評判で、お客さんが集まります。そのイメージに油断した客からぼったくると、とっても儲かります。いわゆるフリーライダーとして、他人の評判にただ乗りしているわけです。一度大手のタクシー会社に入社することで、会社の評判を簡単に手にすることができるのです。
タクシーに限らず、大きな組織になると、過去の実績や仲間の実績があることによって、一人がサボったり、ズルをしても、給料をもらえます。逆に、頑張っても収入があまり増えなかったり、評価された1年後の給料に反映されるなど、頑張るインセンティブも弱くなってしまうということが起きます。タクシーは政府がコントロールしている規制産業なので、クビにするなどの厳しい罰則や、極端な成果報酬を敷くことが難しいという側面もあります。
UBERやLYFTはインセンティブHACK
ご存知の方も多いと思いますが、UBER や LYFTを利用すると、ドライバーを評価するように求められます。つまり「評判」がすぐに「個人に」紐づくのです。タクシー会社ではありません。しかも、その評判は配車を行う際にお客さんに直接伝わります。ドライバー個人が良心的なサービスをするインセンティブが働き、悪いサービスを提供しない仕掛けです。
そして、何よりも大事なのが、ドライバーになるようなドライバーは「個人の評判で仕事をした方が得な人」が多いということです。特に初期のドライバーとしてUBERやLYFTに登録するドライバーは、タクシー会社勤めだと報われない人たちです。シェアリングエコノミーということで、エコな生活を実現しつつ、タクシー会社の経費を中抜きする「もったいない」商法だと思われがちですが、コスト面の話だけではありません。ドライバーが優れたサービスを提供したくなる仕組みを提供し、結果として移動の経験が良くなっている点がこれだけ普及している背景にあります。
タクシーが規制産業であることを考えると、タクシーのサービスの仕組みは法律が規定しています。メーターを義務化することや、料金体系を画一化することで、法律はサービスを高めようとします。これにより極端なぼったくりや、交渉によるバラツキは防ぐことができます。それでも遠回りをしたりするなどして料金を多めに取るドライバーは残ってしまいます。ドライバーのインセンティブの仕組みとしては大きな差です。UBERはタクシー会社と比較されることの多い会社ですが、実はタクシーを規制する政府とも比較しても興味深い点があります。「公共性」という理由で政府が介入している産業も、「フリーライダー問題」によって顧客に不満足が生じているなら、人間をHACKしたスタートアップは勝てる可能性が十分にあると言えるでしょう。
もっと書きたいことがあるので、次はジョブを考えます