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イノベーションとオペレーション
イノベーションとオペレーション
新しいアイデアが普及する過程はSカーブを描きます。
Sの形を右上に登るにつれて、ユーザーの性格が変わることはご理解いただけたのではないかと思います。
(まだ完全に理解されていない方はスーパーカー消しゴムに見る普及プロセス、Sカーブから自分自身のポジションを知る、Tech-On! ものづくりと普及率の深い関係 を参照してみてください)
このユーザーの変化に伴って、製品やサービスに求められることも異なります。こちらの記事では製品の黎明期と成熟期は2つの異なるパラダイムであることを述べました。
同じように、スタートアップと成熟した事業を持つ大企業とではほとんどのすべての点で異なります。
(企業内ベンチャーや新規事業部などは、ルール以外はスタートアップに近いと思います)
スタートアップ | 大企業 | |
資金 | 限られている | 多い |
人材 | 限られている | 多い |
設備 | 非常に限られている | 整っている |
業務プロセス | トライアンドエラー | 定まっている |
組織体制 | 属人的 | 体系化されている |
社内ルール | ない | 整理されている |
意思決定 | アドホック | 組織的・体系的 |
この表に示した違いを生んでいる要因を理解することで、新規事業が失敗する多くの理由が説明できます。そのために、表の左から右、つまりスタートアップが成長して大企業なる過程を考えてみよう。
例えば、介護用ロボットのベンチャーを立ち上げたとする。すると、最初は開発するにも、前例や基準がなく試作品を作っては試し、そして直すということの繰り返しになる。製品が「正常に」動くかどうかの基準すらない。既に普及している産業用のロボットであれば、どのくらいの負荷に耐え、何年間使用されるのか、どのような環境で使われるのか、想定がある程度できる。それはスペックという名の指標が開発者に分かりやすく定義されるためである。ユーザー側が学習するという側面もあり、作り手、売り手、買い手、使い手が前提とする一定の基準は徐々に定まっていく。うまくいったパターンを組織は学習していくと言い換えることができる。
このパターンには「開発」や「営業」といった役割分担も含まれる。その役割分担が機能するための社内ルールが整っていく。
スタートアップ時には、その都度都度で何を開発し、何を売るかといった意思決定はされる。しかし、成功体験や失敗体験が経験値としてたまってくると、判断を間違わないような意思決定の仕組みができたり、暗黙のコンセンサスを求めるようになる。
事業がうまく回りはじめて会社が大きくなりだすと、最初からのメンバーの多くは「昔は何でもすばやくできていたことが、いろんな人のお伺いを立てないとできなくなった」と嘆くのは上記の過程があるためである。
大企業の論理をスタートアップにあてはめてしまう
他方で、大企業の考え方そのままでスタートアップをやると、致命的な問題が起きる。資金、人材、プロセス、ルールなど内々尽くしのスタートアップ。経験上、このような環境に放り込まれると、3つの反応がある。
- 行動が何も取れずに思考停止してしまう
- 仕組みづくりの構想のための会議を繰り返す
- ないなら、ないなりに開き直って動き回る
もちろんスタートアップにおける正解は3なのであるが、他の選択肢を選んでしまっている例を実に多く見かける。この違いがイノベーションとオペレーションなのである。
1は正解至上主義とでも言えるだろうか。正解への道筋がないと、思考停止、いや行動停止してしまうパターンである。すでに確立されたビジネスであれば定石は多く、正解と言えるような道筋に従っていれば失敗しない可能性は高い。これはある程度確立された事業を失敗しないように運営(オペレーション)する極意である。しかし、新しいことに取り組んでいる以上、正解かどうかはやってみた結果からしか言えないということを心掛ける必要がある。
2は巻き込まれる人も多いので、スタートアップでやってしまうと弊害が大きい。仮に仕組みを作ったとしても、試してみないからには仕組みが機能するかどうかわからないからだ。ビジネスが回り、一定のパターンが見えないと、仕組みは描くことはできないのだ。「想定外」の原発事故を除くと、日本の自然災害に対する備えが海外から高く評価されている背景には、災害の多い日本列島に長年住んできた歴史がある。それに、大企業にはふんだんにリソースがある。情報もある。そのため、打てる戦略のオプションが多い。長年そのような環境で仕事をしていると、オプションの中から「最適」なものを選ぶような思考回路が強化される。経営戦略の書籍を読むと「最適化 (optimization)」というキーワードが連発されている。これらの書籍を読むと、最適化の対義語としてイノベーションが挙げられていることが多い。イノベーションの時期では選択肢の中から選ぶような余裕はなく、選択肢そのものを創造しなくてはいけない。これがオペレーションとの違いになる。オペレーションで新たなオプションを作ってしまうと混乱する。
3のように動き回っているうちにパターンは見えてくるものだ。もちろん人によって間違いから学ぶ速度には差があるかもしれない。誰かが勝ちパターンを見つけない限りは、「良い方法」など見つかるわけがない。そのパターンを見つけるためには、トライアンドエラーが必然になる。失敗は辛く、いつ正解にたどり着けるのか、果てしなく感じるかもしれない。しかし、チーム全体が学習することを前提に活動することによって発揮できる能力は計り知れない。
コミュニケーションの原理原則?!
私は恐らく昔からコミュニケーションという領域に人一番感度が高かったであろうことに30歳前後で気づかせてもらった。そのきっかけはコンサルティングという業界に入り、他人に情報を伝え、さらには行動に移していただくという仕事を生業にし始めたことにあると思う。
“人に新たな行動を促す”というコミュニケーションゴールに至る方法を必死に考え、実践するという試行錯誤を通す中で、自分のコミュニケーションスタイルには多くの実践知と言える暗黙知があり、多くの人々はそれを実践できていないことに気づくことができた。現在は意識するしないに関わらず、常にこの原理原則に従うことができるようになった。その結果、ある条件さえ満たせば、どんな人にも自分の伝えたいことを伝えることができると自信を持って言える。逆にこの条件を満たせなければ、どんな簡単な事も伝えられないと思えるようになった。この原理原則を身につけることは、多くの事を伝えられるようになることだけでなく、伝わらない事を諦められるようになるという実は伝えることと等しく重要な気づきを与えてくれる。今回はこの実践的な原理原則をご紹介したいと思う。
コミュニケーション力をより、日本語のニュアンスで”伝える力”と定義すると、私は下記の3つの要素に分解できると考えている。
まずコンテンツとは、伝えたい内容の力。タイムリーな話題やサプライズネタ、理解を補う情報などはこのコンテンツがもつ力。次にプロセスとは、伝え方の巧妙さ。伝える順番やストーリーなどのスキル的な要素。そして最後に情熱とはそれを伝えたいと思う話し手の内なる力。この3要素の掛け算によって”伝える力”は支配されている。
ここまでは何となく理解していただけると思う。それぞれの一つ一つの要素は、皆様が普段から意識していることそのものではないだろうか。次に考えていただきたいのは、この3つの要素を駆使して何に対応するかということである。
それこそが普段伝わらない感に悩んでいる方々には抜け落ちている事が多い要素であり、コミュニケーションの成否を握っている最大の鍵になる。それは、
である。つまり、
言い換えると、
これこそがコミュニケーションにおける原理原則である。これは人間の五感すべてに当てはまることでもあり、認知科学の分野でも明らかになっていることでもある。人は意識的に見たくないものは見えなくできるし、聞きたくないことは聞こえなくできる。それは視界に入っていても、音として耳に入っていても意識的に情報を取捨選択できことを意味している。これは日常的に誰もが体感している事実であるにも関わらず、なぜかコミュニケーションという領域になったとたんに忘れ去られてしまう。なぜか自分が言ったことは、すべて聞いてもらえていると過剰にポジティブ?!になってしまう。
さらに伝える力の影響力に時間軸をつけると、その場で理解してもらうだけでなく記憶として脳内に留めていただく必要がある。こうなるとさらに”興味”という要素が不可欠になることは、実感としてもご理解いただけるのではないかと思う。
では具体的に何をするか?であるが、前述の”伝える力”の3要素を駆使して、
努力をすることである。会議やプレゼンテーションというシチュエーションで重要な点として、”場づくり”という言葉を使われることは多いと思う。この”場”とは無形なものであり、実体が分かりにくいものではあるが、場をつくるとは私は参加者の”興味をつくる”ということと置き換えることができると考えている。これは一対一でも一対多でも同じである。聞き手に聞くための準備を話し手が促すことである。
日常的なTipsを例で示すと話のうまい方の多くは、”枕詞(まくらことば)”を多用していることに気づくのではないかと思う。例えば、
① **さんって**が好きでしたよね?実は・・・
② 最も重要なポイントを一つ挙げるとしますと・・・
③ もうめちゃくちゃ感動した事があるんだけど・・・
これらはどれも典型的ものであるが、①はコンテンツとして相手の興味のあるテーマを選んでいる、②はプロセスとして興味をひくための工夫をしている、③は情熱の要素に着目した枕詞である。そして、長いストーリーになると、これらを複合的に使って興味を引き続けられなければ、伝えたいことは伝えられていないと思わなければならない。
ここに、初対面同士では伝わりにくく、長く深いつきあいになればなるほど以心伝心ができるようになる本質がある。つまり、コミュニケーションのパフォーマンスを高めるためには聞き手に応じてこれら3つの要素をうまく使い分けていかなければならない事は容易に想像いただけると思う。
コミュニケーションのパフォーマンスを高めるための本質は、”聞き手の興味は何か?”という問いに対する答えを見つけることである。
次回は日常的に良くある様々なシチュエーションにおける具体的な応用例を考えてみたいと思う。
対話を深める場
青春を再び
最近は若者の車離れ、テレビ離れ、CD離れ、などと様々な”○○離れ”が叫ばれていますが、これは一言でいうと”青春離れ”と言えるのではないかと考えています。
青春とは、若いからこそできる、分からないながらも、エネルギーあふれながら、理屈はないが、勢いのある時期です。心や体は発達したものの、大した経験はしておらず、空っぽな状態が生むエネルギーは凄い。一見役に立たたないと思われた青春時代の経験が後々とても役に立ったという話には限りがありません。スティーブ・ジョブスであれば、カリグラフィーを学んだりやカルトに入った経験がのちのクリエイティビティに影響したと言われています。
人は若いときは、地位や資産を持っていないため、比較的リスクを受け入れやすいという性質を持っています。あまり失うものはなく、素直にチャレンジしてみよう、やってみよう、という気になるものです。以前より「窮鼠猫をかむ」や「金持ちケンカせず」といった諺があるように、すでに有利な立場にあったり、持っているものがあれば、わざわざそれを賭して勝負をしない特性があります。「イノベーションのジレンマ」は人ではなく起業の事業規模が大きいとイノベーションが起こせなくなるというジレンマを指しています。
最近ではこういった人間の傾向や特性に対する理解が深まっており、「プロスペクト理論」などの理論が確立されています。要するに、若いときはチャレンジがしやすい環境にあり、青春状態を生むはずです。
そういえば、「青春」という言葉自体、最近あまり聞かなくなりました。なぜでしょうか?もはや死語だとするとさみしすぎます。