見向きもされないアイデアに、あえて向き合うの画像

良いアイデアは、たいてい最初嫌われて始まる。

パソコンはマニアのおもちゃ。
Airbnbは、見ず知らずの人の家にわざわざ金を出して泊まるサービス。
そしてAmazonがクラウドサーバーを貸し始めたときには「敵に塩を送らず本業の本を売れ」と。

その後も、世界を変えたアイデアが初期に酷評されるのは珍しくありません。
最良のアイデアは、最初は悪いアイデアに見える。もし良いアイデアに思えるなら、とっくに他の誰かがやっていたりします。

人気のあるアイデアには、もう誰かが取り組んでいて、期待ばかりが膨らんだ値付けがされています。誰もが信じ、誰もが動いたあとなのです。まだ値のついていないアイデアは、世間がまだ受け入れておらず、間違って聞こえたり、真面目な会議で口にすると少し気まずい。要するに不人気。

ただ、ここで注意したいのは、「不人気」が何を意味しているかです。

不人気は、間違っているという意味ではありません。人気とは、そのアイデアがどれだけ説明され、デモされ、「信じても恥をかかない」状態になったかという、「馴染み」を表してもいます。理屈は合っているのに、馴染まない。

AIを病気の診断に使用する。AIで大事な製品のキズを見つけ出す。フロー生産で高機能化学品を生産する。こうしたアイデアは、最初は拒絶されてばかりでした。

もちろん、不人気なアイデアにも、リーズナブルではないもの、取り組み甲斐がないものもあります。なるべくして不人気なものと、不当に人気がいないものを見分けるのは難しく、区別がつかないため、まとめて安値がつくわけです。

「見つけて待つ」だけでは足りない

判官贔屓を勧めている訳でも、逆張りの投資、つまりみんなが嫌うものを安いうちに買って世界が追いつくのを待つことを勧めている訳でもありません。

この教えには、隠れた前提があるからです。「良いアイデアは時間が経てば成長する」「世界は勝手に追いついてくる」という前提です。

見つけて、仕込んで、待つ。市場が目を覚ますのを。顧客が現れるのを。歴史が自分の正しさを証明してくれるのを。これは言ってみれば、山師の仕事です。山師は何かの価値を増やしたのではなく、気づいたことへの報酬を受け取っているだけです。

そして山師には、致命的な落とし穴があります。世界が、いつまでも追いついてこないことがあるのです。不人気なアイデアは、放っておいても人気になりません。誰かが、その仕事をしなければならないのです。

ジェンスン・ファンがやったこと

2006年のNvidiaは、ゲーム用グラフィックカードの会社でした。その年、CEOのジェンスン・ファンは、以後10年近くウォール街に嫌われ続ける決断をします。全チップを設計し直し、ゲーム以外の汎用計算もできるようにすると。CUDAと呼ばれるこの仕組みは、「もっと多くの人がディープな計算をしたいはず」というジョブへの賭けでした。誰にも頼まれていません。余計なコストとリソースを掛けたことで、アナリストは「存在しない顧客のために株主に税金を課している」と批判しました。

しかしファンには、見えているものが違いました。研究者には「大量の計算を、安く回したい」という切実なジョブがあり、それがビデオカードで片づく。

だからNvidiaは、CUDAが動く回路をすべてのゲームカードに組み込み、開発ツールを無料で配りました。カードを持つ大学院生は全員、まるでスーパーコンピュータの持ち主になったのです。ライブラリを整備し、数百の大学に寄付講座を開き、教科書を配りました。長年、これは金のかかる道楽にしか見えませんでした。そして2012年、トロントの研究者3人が市販のNvidia製ビデオカードで画像認識コンテストを圧勝し、ディープラーニングの時代が始まります。10年かけて準備されていた、まさにそのプラットフォームの上で。ゲーム市場がメインだと思われていたNvidiaの事業は、スーパーコンピューティング中心になり、世界でもっとも価値ある企業になりました。

「先見の明」として片づけるもの一理あります。しかしそれだけではありません。2006年に見向きもされなかったアイデアが、いまや膨大な企業価値を生むようになったのは、単に時間が経過しただけではありません。価値は作られたのです。CUDAを介して研究者や学生を一人ずつ味方につけていく、その地道な作業が本質です。

コンテナの話も同じです。貨物を規格化した鉄の箱で運ぶというアイデアは、新しくも秘密でもなく、何十年も前から浮かんでは消えていました。それを現実にしたマルコム・マクリーンは、アイデアに賭けただけでなく、自分の手で作りました。海運会社を買い、船を改造し、クレーンと港に投資し、そして一番大事な決断として、特許を手放しました。業界全体が一つの規格に揃うように、です。自分の箱は、みんなが箱を使って初めて意味を持つと知っていたからです。荷役のコストは1トンあたり約40分の1になり、世界の貿易は姿を変えました。マクリーンの富は、掘り当てたものではありません。20年かけて、自分で作った価値です。

正しいのに相手にされていないアイデアと、誰もが信じるアイデア。その間の溝は、次第に埋まっていくようなものではありません。人の手で埋めるものです。

テーブルの両面

起業家が投資家にピッチをして、出資を求めます。片側には起業家。反対側には投資家。話を聞きながら、値踏みをします。市場は小さくないか?競合が来たらどうする?なぜ誰も買っていないのか?このように欠点探しのQ&Aが続きます。

出資側は、値踏みをしながらコモディティであるお金を差し出します。スタートアップ側は、コモディティからは程遠く、一つ一つ違います。しかも眼前には製品をつくる、顧客を探す、顧客に届ける、チームをつくる、といったことを個別に泥臭くやり遂げるための課題(しかもこれが毎回あまりに異なる)しか見えていません。

化学品の連続生産という当時不人気だったアイデアに取り組んでいた人たちがいました。私たちは投資家という立場もありますが、出資して見守るのではなく、会社づくりから一緒に始めることをしました。会社づくりには色々な側面がありますが、「設備投資額を気にせず、必要な化学品をつくりたい」顧客(こちらもどちらかというと仲間に近い)を探すことが一番大事なステップです。

ディープテックの多くは技術面で困っていません。見事な技術をつくり出し、試作機は動き、論文も出ています。むしろ困っているのは2008年頃のCUDAと同様に、それを必要としている人に出会っていないこと。だから、私たちの仕事は、ほとんどの場合「最初のユースケース探し」に尽きます。特定の業界の、特定の顧客の、解決しにくい問題。

画期的な新素材は、軽い航空機部品になるまで不人気です。新型センサーは、カメラに見えない欠陥を捉える手段になるまで不人気です。技術は何も変わっていません。

この仕事で、応援しているスタートアップが成功する姿を見ることは喜びです。事業の「作り手」側に立てるところも、やり甲斐となっています。そして加えておきたいのは、事業として成功させることで、不人気だったうちから粘り強く研究や開発に取り組んできた人たちが報われる、ということです。これが何よりの励みです。

繰り返します。アイデアを思いついたけれど、すぐに人気が出なかった。というのは、やめる理由ではありません。不人気な良いアイデアとは、悪いアイデアではなく、未完成なアイデアです。

もしジェンスン・ファンがGPUの使い道を自ら提案せずにいたら、きっと他の誰かが気づいて他の企業がAI時代の覇権を握っていたに違いありません。そんな世界線があったとすると、Nvidiaに関わるすべての人が不人気に終わり、優れた技術が報われないまま、眠ってしまうのです。

私たちが不人気なアイデアを応援するのは同情でも逆張りでもありません。まだ世界に届いていない価値を、人の手で完成させる仕事が大事だと考えているからです。


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